「ポスカをノコギリで切断」芸術がバクハツする教室
佐倉市立美術館の取材で感じたのは、子供の感性や美意識を磨くには、「心の自由」を担保することが大事だということだった。心の自由があるから、人の目や世間の常識、ステレオタイプにとらわれないユニークな発想や着眼点が生まれる。しかし、現代の子供たちに心の自由は足りているだろうか。そこで、もう1つ取材した。東京都練馬区にある「スタジオパパパ」だ。
ここは一風変わったアート教室だ。先生は教えず、子供に課題も与えない。子供たちはつくりたいものを自由に制作できる、その名も「やりたい放題」というコースがある。
驚いたのは、黙々と模写する子、彫刻刀でゴム板を彫ってハンコを作る子、紙粘土とスパンコールでカップケーキをつくる子など、静かでおとなしい旧来のイメージ通りの「アート教室」らしい子供がいる傍らで、なんとポスカ(水性サインペン)をノコギリで切断している子がいたことだ。切断して出てきた緑色のインクは、隣の子がつくっていたグルースティック(グルーガンという接着機の材料)で装飾したミニカーにかけられた。
破天荒な行動に少々面食らっていると、教室の主宰者である藤ノ木拓磨さんは「彼は、ペンの中にある丸い球(分離しやすいインクをかき混ぜるために入っている)が見たいんですよ」とニコニコしながら教えてくれた。
さっきケーキをつくっていた女の子は、今度はローラーで壁を赤く染めていた。インクを塗り合って対戦する任天堂のゲーム『スプラトゥーン』を現実世界でやっているようなものだ。まさに岡本太郎ばりに「芸術がバクハツ」していたのだ。
「今日はおとなしいほうです(笑)。壁に黒い絵の具をバシャッとかけて、かけた本人たちも跳ね返りで全身真っ黒になったこともあります。子供たちには、『人に危害を加えない限り、何やってもいいよ』と伝えているんです。『いろんな道具があるけど、全部使っていいよ。壁に落書きしてもいいし、床に水を撒いてもいい。僕にかけちゃったっていいからね!』って。こう言うと喜んで感極まって泣く子もいるんですよ。いまの子は、やっちゃダメって言われすぎているのだと感じます」
自由に飢えた現代の子供たち
藤ノ木さんがスタジオパパパを設立したのは、東京藝術大学4年生の時のこと。
「大学入学当初から就職をせず、自分のアイデアで仕事をしていきたいと考えていました。では、僕に何ができるかなと社会にアンテナを張った時に目に入ったのが、教育でした」
自分が子供の頃と違って、大人の目を気にせず、自由にのびのびと遊べる時間が少ないこと。また、公共施設では、周りに迷惑をかけないように親が神経を尖らせていること。そうした状況に藤ノ木さんは問題意識を抱いたそうだ。
「子供たちは窮屈そうだなと感じました。目もよどんでいる。こんな風に子供たちが育っていく20年後の社会を見たくないって思ったんです」