人とのつながりで、地域仮想通貨がもらえる

【柳澤】逆に面白くないときって、深刻なときですよね。どうして深刻になるかというと未来に行き詰まるからですが、ブレストをやると未来が明るく見えてくるんです。それと、人の意見に乗っかって自分と相手の意見の境界線がなくなることも大きい。人の意見も自分のもののように感じるから、主体性が出てくるし、うまくいけば自分の手柄にもできる(笑)。

【田原】モチベーションが上がるんだ。

【柳澤】ちょっと違います。「やるぞー」というより、気にしなくなる感じ。モチベーションは無理に上げる必要がありません。人間の本能として、成長するとか売り上げを上げるのは楽しいこと。そこは自然にやろうとしますから、ドーピングのように無理に上げるのはよくないです。

【田原】柳澤さんは「鎌倉資本主義」を提唱している。これは何ですか。

【柳澤】「地域経済資本(財源や生産性)」「地域社会資本(人のつながり)」「地域環境資本(自然や文化)」という3つの地域資本をバランスよく増やすことが人の幸せにつながるという考え方です。

【田原】従来の資本主義はダメですか。

【柳澤】ダメではないし、楽しいですよ。ただ、金融資本主義のお金がお金を生む構造だと、富の格差が広がりすぎる。GDPを否定はしませんが、それだけを追い求めていると問題が起きます。いまの資本主義をアップデートして、経済合理性だけでなく、人とのつながりや豊かな環境を指標に加えたほうが幸せになれるんじゃないかと。

【田原】考え方はなんとなくわかります。幸せになるために、具体的に何をするのですか?

【柳澤】「まちの社員食堂」をつくりました。この食堂は面白い。いろんな会社や市役所が出し合ってつくった食堂で、会員企業で働く人は割引料金で食べられます。いま毎日60~70人が利用しています。

【田原】そんな食堂ができたら、町のレストランの敵にならないの?

【柳澤】ならないです。食事は地元の飲食店や料理人が1週間の週替わりで提供します。鎌倉は観光客相手の店が多くて地元の人にとって少々値段が高いのですが、まちの社員食堂に出せば店を知ってもらえる。いま40~50店が参加を表明してくれています。

【田原】ウィンウィンなんだ。でも、柳澤さんたちが面白いと思うものを店主たちが面白いと思うとは限らない。よく口説けましたね。

【柳澤】まずカマコンを長くやってきて、人と人のつながりがあったことが大きい。あと地元愛の強い店主の方が多いのも鎌倉ならではで、ほとんどのお店が2つ返事で受けてくれました。

【田原】そうですか。鎌倉は裕福な高齢者が多くて保守的なイメージ。柳澤さんが斬新なアイデアをぶつけると反発が起きるのかと思った。

【柳澤】町のみんなは、自分都合じゃなく町の都合を考えているのか、本当にこの地域に骨をうずめる覚悟があるのかというところをきちんと見ています。僕らはITで起業したので、20年前は多少のハレーションがありました。でも、僕らは鎌倉が好きで、そこに骨をうずめようという姿勢でやってきて、そこは伝わったんじゃないかと。

【田原】社員食堂のほかは?

【柳澤】鳩サブレーで有名な豊島屋さんと一緒に「まちの保育園 鎌倉」を開園したり、鎌倉で働く人を増やそうと、地元企業が共同で説明会をしたり、独身社員の合コンを行う「まちの人事部」も立ち上げました。「まちの」シリーズは、鎌倉の人たちのつながりを増やしたり、働く人を増やすという目的でやっています。