どうすれば「ブレスト」は盛り上がるのか。まちづくりから組織再生まで多種多様な「場づくり」の対話技術を研究してきた東京工業大学の嘉村賢州特任准教授は「面白法人カヤックのやり方に注目している」という。「会議」の代わりに「ブレスト」を行うという、同社の方法論とは――。

アイデアを「スルー」する会議は失敗する

東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授 嘉村賢州(撮影=プレジデント社書籍編集部)

5年ほど前から、「コクリ!プロジェクト」という地域リーダー・企業・NPO・大学・官僚・クリエイター等、多様な社会リーダーが集まり、対話することで共創的にアイデアやプロジェクトを生み出し、地域や社会に未来をつくっていく集まりに参画しています。

特定のテーマやゴール設定をして集まるのではなく、その場で集まった人が肩書を外して語り合い、未来を探求していくことがこの集まりの面白いところです。その集まりに3年ほど前、経営者の1人としてカヤックの柳澤大輔さんにも参加していただきました。お話の中で僕が非常に興味を持ったのが、カヤックが社内で行っている「ブレスト」(ブレイン・ストーミング)でした。

「面白法人カヤック」は、300人いる社員の9割がデジタル領域のクリエイターのIT企業。社員それぞれが持つアイデアやセンスを存分に引き出すため、いわゆる「会議」に代わり「ブレスト」をメインに議論を行っている。創業から20年かけて社内で徹底的にブレストを実践し、社内文化として定着した。

僕が代表を務めるNPO法人「場とつながりラボhome's vi」などの活動を通し、僕自身もファシリテーターとしていろいろな発想法を実践してきました。ブレストもそのうちの一つです。ブレストは手軽に実践できるのが良いところですが、実は誤解も多い。ブレストといいながらブレストとは似て非なるものになってしまうケースが多々あるのです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/SetsukoN)

僕の経験から言うと、その理由は2つあります。1つは出たアイデアを周囲が「良い」「悪い」と検討してしまうからです。誰かが意見を言うたびに判断されると、発言のハードルが次第に上がってしまいます。その結果、10分間でたった30個しかアイデアが出なかったりします。

もう1つは、スルーが多いことです。せっかく思い切って発言しても、リアクションがないと、「いまの発言、響かなかったのかなぁ」と不安になり発言する勇気が萎えてしまいます。そうなると発言者が偏っていきます。

「盛り上がるブレスト」「参加してよかったと思えるブレスト」は、そう簡単に実現できないことを僕は身を持って知っています。だからこそ、カヤックがいったいどんなブレストを実践しているのか知りたいと思ったのです。

カヤックが大切にする「2つのブレストのルール」

カヤックが大事にしているブレストのルールは2つあります。

1つは「他人のアイデアに乗っかる」。これは、人の意見を否定せず、人の話をよく聞いてどんどん便乗していこうよということです。

もう1つは「とにかく数を出す」。すばらしいアイデアを捻り出そうと力むのではなく、思いつきでオッケーということです。プレッシャーから解放されるので、「自分はつまらない意見しか言えない」と思い込んでいる人も臆せず発言できるようになります。その結果、1人で考えているだけでは決して出てこないアイデアが生まれます。

このブレスト文化が、カヤックという組織をポジティブにしていると僕は考えています。それはなぜか。カヤックのブレストはこの2つのルールにより、究極的に「心理的安全性」をつくることができているからです。