軍隊的な組織運営の方法論には限界がある

僕は、学生中心の小さな集団から、僕が大学時代を過ごした京都という伝統ある町まで、さまざまなコミュニティづくりに関わった後、企業の組織変革や開発に携わるようになりました。これまで業種を超え、中小などの規模も超え、多くの企業を見てきて思うのは、抱えている問題の根は同じなのではないかということです。

あまりにも共通しているので、僕はあるとき、いまの組織の運営の仕方が根本的に間違っているのではないかと思いはじめました。近代以降、軍隊的な上意下達を基盤とする組織運営の方法論が企業に取り入れられましたが、それをマイナーチェンジして使い続けてきて、結局ほころびが出はじめています。

でもどこかにまったく違う組織のつくり方があるんじゃないか。そんな問いを持っていたとき、1年間の海外充電中に出会ったのが「ティール組織」でした。

ティール組織』(英治出版)の著者・フレデリック・ラルー氏は、従来の組織とは違うマネジメント、組織運営、人間関係による、生命体のような組織があるはずだという仮説を立てて世界中を調査した。その結果、実際にいくつかの企業が脱ヒエラルキーの状態にあり、新しい経営方法で従来のアプローチの限界を突破し成果をあげていることがわかった。ラルー氏の提唱する「ティール」の概念を日本で広めたのが嘉村氏だ。

ティールは、生命体のような自律型組織とよく説明されます。指示命令系統がなくても個人が自分の判断で動き、ゆるやかなつながりを保ちながら仲間と共創します。そのためには、一人ひとりが自信をもって存分に自分の能力を発揮できるよう、「心理的安全性」が十分に確保されている必要があります。ラルー氏はそういう状態を「個人として全体性を発揮している」ことから「ホールネス」と呼んでいます。

参加者がイキイキ動き出す感動の瞬間

柳澤大輔『鎌倉資本主義』(プレジデント社)

ファシリテーターをしていると、参加者の相互作用で自然に場が熱を帯び、新しいアイデアが次々と生まれ、気づいたらみんながイキイキと動き出しているという感動の瞬間に立ち会うことがあります。ワークショップの中で参加者同士が集まっては離れ、離れたかと思えばまたくっついたりしながら、その日の課題をやり遂げようとしている姿も頻繁に目にします。こうした生命体のような自律性を人は本来持っています。

カヤックが組織づくりの柱とし、まちづくりの手法としても成果を出している「ブレスト」も、「心理的安全性」を醸成し「ホールネス」を引き出すための非常にすぐれた仕掛けだと思います。

組織や地域の中に安心して感情をさらけ出し、自分の考えを述べられる場をつくることができれば、人と人が生命体として有機的につながっていくことができます。簡単なことではありませんが、そんな組織や組織が出現しはじめていることを、いま感じています。

嘉村 賢州(かむら・けんしゅう)
東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授
1981年、兵庫県生まれ。京都大学農学部卒業。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践している。2008年に組織づくりや街づくりの調査研究を行うNPO法人「場とつながりラボhome’s vi(ホームズビー)」を京都で立ち上げ、代表理事を務める。2015年に1年の休暇をとって世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びを研究する「オグラボ(ORG LAB)」を設立。2018年4月、東京工業大リーダーシップ教育院の特任准教授に就任。
(構成=井上佳世 写真=iStock.com、プレジデント社書籍編集部)
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