味・量・接客・コスト削減……したたかな経営戦略
【3:常連客は裏切らない】
町中華の客は、引っ越しや転勤がないかぎり、何十年と気に入った店に通う。昼は定食やセットメニューを注文し、夜は“飲み中華”として愛用する人も多い。寡黙に見える店主だが、話し好きで気さくな人も多く、小さな町では週末の午後など、サロンのようにくつろぐ常連客の姿を見ることができる。彼らは律儀だから、それなりの注文もしてくれるし、知り合いも連れてきてくれる。
【4:家賃や人件費がかからない】
全盛期の町中華は「出前だけで食っていける」と言われるほど外からの注文が多かったという。いつもガランとしているのに潰れないのには、そんな理由があったのだ。
流行っている店では多くの従業員を雇い、出前専門のスタッフもいた。現在、出前の需要は激減したが、生き残り店はそうした変化に対応し、家族経営に切り替えることでコストを節減。開店時の借金は返し終わり、持ち物件で商売する店も多い。いつ店をやめることになってもいいと腹もくくっているが、それでも鍋を振り続けるのは、店の厨房が起きている時間の大半を過ごす“自分の居場所”だからだ。
【5:行列はいらない】
地域密着型ですでに客のついている町中華は宣伝の必要がない。ヘタに有名になって、他所からの客が増え、「俺の店」だと思っている常連客が離れてしまうことを何より恐れるのだ。行列なんてちっとも欲しがってない。町中華探検隊でも、ここぞと思う店に取材を断られることはしょっちゅうあり、「悪いけど、常連さんが座れなくなったら申し訳ないから」とスパッと言い切れる町中華の強さを感じている。
「おかげさまでウチはなんとかやってこれたけど、こういう商売をこれからやるのは大変だよ。メニューが多くて材料のロスが出やすいし、手間もかかる。中華だったらラーメン専門店のほうが当たれば儲かるでしょう」
ある町中華の店主がそう言って笑った。
「いつまでやるかって? とりあえず東京オリンピックまでは頑張るよ」
町中華は滅多なことで潰れない。静かに歴史を閉じることはあっても。