そしてもうひとつ日本にユニコーン企業が少ない理由として、グローバル展開が不得意ということもある。DeNA、楽天、GREEなどは、国内で成功した後、海外に打って出た。しかし最初、国内用につくったビジネスモデルを、海外用に修正してもうまくいかなかったのである。

これから5年間で評価額10億ドルに達するには、国内市場で展開しているだけでは難しい。メルカリの創業者・山田進太郎CEOは、早い段階から海外でも成功することを視野に入れていた。そのように初めからグローバル市場をターゲットにしたビジネスモデルが必要になっていくだろう。

ベンチャー育成に、国も本気を出した

現在、国がベンチャーを育成しようとする、本気度の高い取り組みが増えている。スタートアップ企業約1万社の中から選ばれた一押し企業92社が、官民の支援を受けられる「J-Startup」。ベンチャーを世界のイノベーション拠点へ選抜・派遣していくプログラム「飛躍 Next Enterprise」。全世界に拠点を持つジェトロも、海外展開したいベンチャーと、現地のベンチャーをつなぐ事業を始めた。

とはいえ、政府だけ、もしくはベンチャーだけが頑張っても成果はなかなか出ない。ベンチャーを取り巻くあらゆる要素が関連する「エコシステム」の構築が不可欠である。身内の理解も、学校教育も、インフラ整備も、リスクマネーの拡大も同時に進め、お互いがメッシュのようにつながって、初めて全体が広がっていく。

現在、そうした「エコシステム」が徐々に強化されつつあることを考えると、「未来投資戦略2018」のKPIの達成はありうるかもしれない。一方で、20社や10億ドルの目標を意識するあまり、無理に評価を高めてバブルを生むことには警戒が必要だ。楽観も悲観もできない、というのが現在の率直な評価である。

私が楽観的にとらえているのは、起業家に対する価値観の変革である。棋士の藤井聡太七段が現れたら将棋がブームになったように、日本人は比較的熱しやすい気質を持っている。もし今後、若くて挑戦心にあふれた“ベンチャーの旗手”と呼べるスターが1人でも誕生すれば、ベンチャーへの憧れが一気に醸成されるのではないか。それが遠くない将来であることを、期待している。

長谷川博和(はせがわ・ひろかず)
早稲田大学大学院ビジネススクール教授
野村総合研究所で自動車産業の証券アナリスト、ジャフコでベンチャー投資を経験して、1996年に独立系のグローバル・ベンチャー・キャピタルを設立。取締役、監査役として多くのベンチャー企業の経営にも参画する。2012年から現職。近著に『ベンチャー経営論』(東洋経済新報社)。
(構成=Top communication 写真=iStock.com)
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