なぜ、25歳男性の両親は「障害年金受給」を拒むのか

本人はまだ25歳です。年約78万円の障害基礎年金が支給されれば、山本さんの経済的不安は軽減されます。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Tinpixels)

「はい、そうするしか方法がないかもしれません。主治医の先生にお願いしてみます」

両親はそう話すものの、なぜか表情は曇ったままです。すると後日、父親が私の事務所に訪ねてきました。

「実は、せっかくご提案いただいた障害年金の申請なんですが、当面は見送ることにしました。主治医の先生も慎重でしたし……」

申請したものの、障害の程度が軽く却下されるケースもあります。そうなればしかたありませんが、申請自体をしないのはどういうことでしょうか。息子の生活の糧を得る機会を捨ててしまうようなものです。私は父親に率直に言いました。

「世の中には『働かないのにお金をもらって』などと言う人もいますが、そんなことは気にする必要はありません。息子さんは障害であり、年金を受ける権利があるのですから」

すると、父親は意外な返答をしました。

「いや、そうことではないんです。障害年金を受給してしまうと、回復への気持ちがなえてしまいそうな気がするのです。本人もなんとか、仕事ができるようになりたいと言っていますし」

「怠けて、働かずに収入を得ている」という批判は当たらない

精神疾患での障害年金の受給については、さまざまな意見があります。

一部に、「怠けて、働かずに収入を得ている」という批判があります。確かに、モラルに欠けた受給者もいないわけではありません。しかし、ひきこもりや精神疾患に関する限りは、この批判は当たらないと私は考えています。

これらの人は、お金があるから働かない、お金がなければ働く、という単純なものではないからです。他人と接することができずに、働きたくても働けないのです。仕事をしていないことで一番苦しんでいるのは、当の本人でしょう。

コミュニケーション能力を身につけるには外出が必要で、そのためにはある程度のお金も必要です。障害年金を受給することで、本人がある程度のお金を管理でき、自由に使うことができれば、回復の一助になるでしょう。また、障害年金を受給することで、「自分の収入がある」「親に負担をかけない」という認識を持てば、自信にもつながります。障害年金を受給することが状況の回復、ひいては社会復帰につながると考えられます。

もちろん、経済的な側面も小さくありません。年間約78万円の収入が得られれば、その後の家計状況は大きく改善します。将来の不安を取り除くことは心の安定につながります。それによって前向きな気持ちになることができるでしょう。