東南アジア飲食店投資詐欺の実態
Aさんに相談を受けた現地の弁護士事務所は、筆者の取材に次のように語った。
「Aさんのケースでは、取り締まりに来た公務員は、タイ人のI氏から賄賂をもらっていました。だからこそ偏った対応をしてきたわけです。そして最後に追加で要求した60万バーツは、この公務員とI氏とで折半をするという約束となっていた事もわかりました」
「こうした飲食店投資詐欺に関連する嫌がらせには、Aさんが被害に遭った手口のほかにも、たとえばタイの商務省に通報して、あらかじめわざと許可を得ていない部分を摘発させる、税務署に通報して、G氏やH氏が脱税指南をしていた店に、わざとその点を脱税だとして摘発させる手口を仕掛けてくる事もあります」
「Aさんのケースでは、実際には無許可だったとわかった大手チェーンのブランド名をAさんが使わないと決めた直後に、それを知ったG氏が、今度はまた別の日本人に使わせてバンコクの日本食店をオープンさせていました。この新店はすぐに潰れましたが、酷い手口です」(以上、同事務所)
こうして投資した人は、嫌がらせをされたうえに賄賂まで毟(むし)り取られ、店は潰れる。するとまたセミナーが開かれ、カモが集まる――このサイクルを繰り返すのが、タイを始めとする東南アジアへの飲食店投資詐欺の概要である。
投資した店舗で高額なコストを中抜きされる
Aさんと同様にG氏のセミナーに参加し、バンコクの日本食料理店に視察にも行って、G氏に勧められて投資したBさん(40代男性)も、Aさんと同様、投資した店舗で高額なコストを中抜きされ、日本の有名ブランド店名を利用できると嘘をつかれていた。
さらに現地の税務署から、Bさんの決算など必要な申告自体が何もなされていないと連絡があったという。実はG氏、H氏らは高額の会計の費用を取りながら、店の決算にすら手をつけていなかったのだ。
BさんはG氏やH氏に依頼するのを諦め、自身でどうにか税務申告を実施。ほどなく店を畳んだという。
「G氏が『すべてこちらでやる』と言っていた話や、セミナーで『日本の飲食店経営でも成功した』という言葉をそのまま信じてしまったのが間違いでした」(Bさん)
さらに、別のCさん(50代男性)の出資店もたちまち赤字に追い込まれた。しかも、Cさんは、店舗への出資者は自分1人だと思い込んでいたが、G氏に誘われてCさんとは別の日本人が3人も投資をしていたことが後でわかったという。
「G氏は視察に行った店以外の複数の人気店でも同様に金を渡していたらしく、どのお店でも“あぁGさん!”と呼ばれていたので、地元では有名な実力者なのだと思ってしまいました」(Cさん)
被害も4倍にのぼったというわけだ。