依頼者プレッシャー通報制度の存在
「クライアントの立場で動くことはありうる」という岩井氏に対し、先のA氏は「監督官庁や税務署等の第三者に鑑定評価書の内容を確認されるケースもあるので、説明のつかない配慮はいたしません」と断言する。日本不動産鑑定士協会連合会は2012年、「依頼者プレッシャー通報制度」を設け、依頼者から不当な働きかけを受けた場合は同協会に速やかに通報・調査請求するよう呼びかけているが、想定しているのはもっぱら公共機関や民間企業から請け負ったケースのようだ。
相続争いの裁判において、双方の主張する評価額に差があって決着がつかない場合は、裁判所が指定した不動産鑑定士が登場する。都合3名分の「不動産鑑定評価書」が法廷に持ち込まれるわけだが、その最後の1人の鑑定が「尊重されて」最終的に決着がつく。
“最後の1人”の選び方については、「最高裁として何らかの基準は持たず、候補者の資格・勤務経験などについても同様」(最高裁判所広報課報道係)で、個々の事案ごとに裁判官らが適任者を選んでいるという。
「結局、不動産鑑定士を信用しなかったら、不動産取引、今の社会の仕組みが成り立ちませんからね」(渡辺氏)
差額はともあれ、裁判所の仲裁であれば納得するほかない、というわけか。
山下・渡辺法律事務所
1956年、東京都生まれ。80年一橋大学法学部卒業、三菱地所入社。89年司法試験合格。90年退社。92年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。著書に『最新 借地借家法の解説』ほか。
岩井重一
アクト法律事務所
1945年、長野県生まれ。68年中央大学法学部卒業。69年司法試験合格、72年弁護士登録。2004年東京弁護士会会長、日本弁護士連合会副会長。著書に『日本人の心得―裁判員になったら読む本』ほか。