依頼者への“忖度”はあるのか?

相続争いの裁判では、「一方が出した鑑定評価額に相手方が納得せず、別の鑑定評価額を提出することがある」(アクト法律事務所・岩井重一弁護士)が、この2つの金額は往々にして一致しない。渡辺氏は、

「鑑定の手法自体は国土交通省の『不動産鑑定評価基準』である意味確立されていますし、不動産鑑定士の方々は、個々の事柄にものすごく精緻で理論的です」

と言うが、調査で得た材料のどれをどう使うかは、専門家としての彼らの裁量に委ねられる。入手する資料、地域の状況や市場の将来動向、不動産の競争力や収益性を分析・判断する知識や経験には、必然的に個人差がある。「不動産鑑定士によって結果が違うのは、ある意味で当然なんです」(渡辺氏)。

価格差が出やすいのは、どんなポイントか。

「差が出るのは、定量化されている駅への距離や道路の幅等ではなく、不動産鑑定士の主観が入ってくる項目。例えば住環境や、商業地の栄え方などは、価格で5%、10%といった差をつけるような客観的な基準がありません。この辺りの違いが細かく積み重なって、だんだん差が広がってしまう」(A氏)

一定規模の大きな更地や、道路に面していない旗竿物件、近くに墓地や火葬場、ゴミ置き場といった忌避施設がある土地などは評価が難しい(表参照)。

さらに気になるのは、“森友問題”ではないが、依頼者への忖度だ。依頼者から相続争いの背景を聞く過程で、その意向はどうしても耳に入ってしまう。不動産を相続する人は低く評価してもらいたいし、代償金をもらう人は高く評価してもらいたい。それぞれの意向に沿った“配慮”が働いてしまうのでは? という疑問が湧く。