相続ほどまとまった資産が入る機会は、そうそうない。親族一同が価格の査定に神経を尖らせるのは必然だが、その“分け前”でモメたときに重要な役割を果たす「不動産鑑定」とは?

「結果が違うのは、ある意味で当然」

遺産分割協議において、遺族の“分け前”に直結する不動産の価値の見積もりは火種になりやすい。誰に頼むのかは大問題だ。単純に相談できるのは不動産業者。マーケットにも通じているし悪くない選択だが、不動産業者の査定は売却の売値を決める価格なので、法的な責任は問われない。

「相続人の親族間の仲がうまくいっていれば、それでもお互い納得するのでしょうけど、こじれて裁判になれば、不動産鑑定士に依頼するしかありません」

大手デベロッパー出身の渡辺晋弁護士が言う。

不動産鑑定士は「不動産の鑑定評価に関する法律」に基づく国家資格。不動産の経済価値についての専門家だ。依頼料が数十万円から100万円超とあって、国土交通省などの公共機関や金融・デベロッパーなど民間企業が主な依頼者だが、相続を争う裁判ではしっかりした「鑑定評価額」が必要となるため、個人でも弁護士、税理士、司法書士など士業経由で依頼が舞い込むケースもあるという。

匿名の不動産鑑定士(A氏)が語る。

「依頼してくる個人の方の多くは、地主さんなど大きな資産のある方ですが、普通の方からも『きょうだい間でもめているので、実家の不動産を鑑定してほしい』という依頼はあります」

不動産鑑定士は、現地調査や資料収集から分析・作成した「不動産鑑定評価書」を依頼者に発行する。そこには、客観的な立場から理論的に算出した「鑑定評価額」が記載される。この鑑定評価額が、裁判の行方を大きく左右することになるわけだ。

しかし、一般に馴染みの薄い不動産鑑定士の「評価額」は、いったいどれだけ信用できるものなのだろうか?