資産家1人の資産に、2日がかりで全国120カ所以上の土地を巡回したこともあるという高橋氏。

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「この財産目録を手書きで作ったら大変。でも、パソコン・ワープロが使えるなら、ミスはすぐ直せる。謄本を取り寄せて表を作ってしまえばいいから簡単だし、下手な字を書かずにすむ(笑)。財産目録をパソコンに登録しておいて、物件の通し番号をつければ楽に整理できますし、『○番は誰々にあげる』などと省略して書くことができます。いい試みだと思いますね」

もっとも、自筆の部分はそのまま。相続の案件を多く手がける弁護士の萩生田彩氏は、「『自筆』の問題点は3つありました。書くのが大変であること、保管場所がわからなくなること、もし見つかっても、署名捺印が抜けていたり、日付が平成○年○月“吉日”といった形式の不備で無効となることです」と指摘する。

“抜け”にはいろいろある。高齢の遺言者が、書き損じ箇所の訂正を訂正印だけで行って、正しい方法で行っていなかったので、その部分について無効となってしまう、というケースがしばしばある。

「『○○の不動産はお母さんに』という記述も本当によくあります。お母さんって、誰?みたいな(苦笑)」(同)

笑えぬ例は、ほかにもある。「ある遺言書に『私の金はすべて妻に』とあった。その方はゴールドも持っていたので、金(カネ)なのか金(キン)なのかわからない。ゴールドの評価額より預金のほうが大きかったから『これは預金だ』と主張したのですが、文言上明らかでないという理由で無効になりました」(同)

そんな心配の残る「自筆」を後押しする法改正がされたのはなぜか。実は「自筆」作成の緩和とともに、遺言書保管法という新しい法律ができて、法務局で「自筆」を預けて管理してもらう仕組みが始まるのだ。

「目録のパソコンOKより、こちらのほうが影響が大きいのでは」という萩生田氏は、法務局が預かる際に行う事務官(遺言書保管官)の審査に期待する。「署名捺印等々、遺言書として形になっているかをいったん審査してくれます」(同)。

内容はOKでも形式がダメ、という場合でも、プロに見てもらい、未然に修正するチャンスが生じるわけだ。

「法務局で保管するもう1つの目的は、相続人が見つけて書き換えたり、捨てたりする事態の排除です」(同)

恐ろしいことに、そんなケースが少なくないという。

「発覚すればその相続人は排除されますが、捨ててしまった場合、何と書かれていたかわかりませんよね? 遺言は相続を開始してから作り直すことができません」(同)