「字が違う」「無理やり書かされたんだ」

実は、公証役場で作成されるから一見、ノーミスで安心できそうな「公正」も、必ずしも万全とはいえないという。

「公証役場の公証人はいちおう受任義務があって、遺言書を頼まれたら作成しなければいけないのに、ちょっと複雑になると『ウチでは作れません』と言うし、公証人が作ったからちゃんとしているというわけでもありません。遺言書無効訴訟の際に『無効』とされた遺言書もけっこうありますよ」(萩生田氏)

そうなると、形式や中身の無謬性について比較が難しくなるが、「自筆」の費用が「公正」よりぐっと安価で済むようになる点は見逃せまい。

「金額はまだ具体的には決まっていませんが、印紙代の数百~数千円程度でしょう。『公正』のほうは2万~10万円で、普通は5万円程度と案内されます。財産の評価額と遺贈の相手の人数、遺言書の紙の枚数で一律に決められています」(同)

ただし、「弁護士の立場で言えば、『自筆』は勧めません。『親父の字じゃない』『無理やり書かされたんだ』などとトラブルの元になるからです」(河野氏)というから、安いから一概にお得とは言い難い面はあるようだ。

「ただ、『自筆』を作る方は一定数いらっしゃいます。従来より作りやすくなるとは言えるでしょうね」(同)

「『自筆』は簡単に作れるからいい。そこに保管という制度が新設されただけ。別にこれまで通りの『自筆』でもいいわけで、新しい『自筆』は今後、旧『自筆』と『公正』の間のような位置づけになりそうですね」(萩生田氏)

いずれを選ぶのか、親族間でよく相談しておこう。

河野祥多
弁護士
むくの木綜合法律事務所代表。1972年、埼玉県生まれ。94年早稲田大学理工学部電子通信学科卒業。2004年弁護士登録。07年より現職。専門は中小企業法務など。
 

高橋安志
税理士法人 安心資産税会計代表税理士
1951年、山形県生まれ。76年中央大学卒業。税理士向け講演を多数。『平成30年4月からこう変わる! Q&A小規模宅地特例の活用』ほか。
 

萩生田 彩
NEXTi法律会計事務所代表弁護士
東京都生まれ。2011年明治大学法務研究科法務専攻修了、12年弁護士登録。17年より現職。『遺産分割実務マニュアル』(共著)ほか。
 
(写真=iStock.com)
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