相続編▼40年ぶりの法律大改正で老後の夫婦関係が激変

▼配偶者居住権

配偶者親族に家を奪われないために

約40年ぶりに相続法(民法)が大きく改正された。被相続人の介護や看病で貢献した親族は金銭要求が可能になる(特別寄与料請求権の新設)など、2019年7月より順次施行されていく。

父親が亡くなった後、同居する長男に母親が家を追い出される――。そんな事態を防ぐために新設された「配偶者居住権」(長期)は、2020年4月にスタートする。

相続では平均寿命の関係から、父親が先に亡くなり(一次相続)、次に母親が亡くなる(二次相続)ことが多い。父親が先に亡くなった場合、母親は当然、そのまま自宅で暮らしたいと考えるが、相続税を考えると長男が相続したほうが有利になるケースが多い。しかし、長男が自宅を相続すると、思わぬ事態になる可能性がある。弁護士の武内優宏氏は、こう指摘する。

「長男の嫁が『自宅を売却して引っ越したい』と言い出すパターンは少なくないのです」

そうなれば、自宅はすでに長男名義になっているので母親も阻止できない。結果、住む場所を失うことになるのだ。

今後は自宅を「居住権」と「所有権」に分けて、別々に相続が可能になる。母親が「居住権」を取得すれば、生涯住む権利が得られる。自宅をまるごと相続するより「居住権」のほうが評価額は低くなるため、預貯金の相続もしやすくなる(図1)。

「配偶者居住権は子どものいない夫婦にも使い勝手のいい制度です」

子どものいない夫婦で夫が亡くなると、法定相続人は妻と夫の両親。両親が亡くなっていれば夫の兄弟姉妹が法定相続人になる。この場合、法定相続分は妻が4分の3で、夫の兄弟姉妹はトータルで4分の1。

たとえば、この夫婦が夫の親から相続した家に住んでいたとする。夫の死後、家を相続した妻が亡くなった際には、妻の両親が法定相続人になるが、亡くなっていれば妻の兄弟姉妹に権利が移る(図2)。夫側の親族は納得できないだろう。

「それを防ぐためには、夫は遺言で自宅の居住権を妻に、所有権を自分の兄弟姉妹に残せばいいのです」

これで妻は生涯、自宅に住み続ける権利が得られる。妻が亡くなれば居住権は消滅し、自宅は完全に夫の兄弟姉妹のものになる。配偶者居住権は譲渡できないが、転貸は可能。妻が老人ホームに入居することになった場合は、自宅を貸して賃貸料を入居費用に充当することもできる。