子どもがいても遺言が欠かせないケースもある。子どもが未成年の場合だ。

「未成年者は遺産分割協議に参加できませんので、遺産分割をするためには特別代理人を立てなければなりません」

※写真はイメージです(写真=iStock.com/takasuu)

一般的に未成年者が契約などの法律行為をする際には、親権者が法定代理人になって手続きする。しかし、相続の際には親も相続人となるため、利益が相反してしまう。そこで家庭裁判所に特別代理人を選任してもらう必要があるのだ。

「特別代理人は子どもの権利を守ろうとするので、法定相続分を主張するでしょう」

資産の内容によっては母親が自宅を相続できないケースも生じる。また、遺産分割協議が整うまでに時間がかかるが、遺言があればそれも不要だ。

▼離婚

離婚届け出の前にするべき手続き

「私が扱った案件で離婚協議中に夫が亡くなり、多くの財産が妻のものになってしまったケースがあります」

離婚協議中の当事者を仮にAさんとしよう。夫妻には子どもがいなかったので、離婚するのであれば、Aさんは妻に多くの資産を分けるつもりはない。

ところが離婚協議中にAさんは亡くなってしまった。法律上は離婚前なので妻は相続人になる。また、子どもがいなかったのでAさんの両親も相続人になり、法定相続分は妻が3分の2、Aさんの両親が3分の1。離婚するつもりだった妻に多くの財産が渡ってしまった。

加えてAさんの勤めていた会社からの死亡退職金の給付も、受取人は妻。さらに、Aさんは結婚した際に生命保険に加入し、“妻”を受取人にしていた。生命保険は受取人固有の財産なので、相続財産には含まれず、全額が妻のものになった。

このケースでは、死亡退職金は社規社則で妻と定められていればどうにもならないが、生命保険の受取人は離婚を考えた段階で父親などに変更しておくべきだっただろう。

「生命保険の受取人を“妻の名前”にしていたためにトラブルを招く可能性もあります」

Bさんは離婚後に再婚した。離婚する前に加入した生命保険の受取人を前妻の個人名にしていたが、離婚後に手続きをするのを忘れ、そのままになっていた。再婚後にBさんは亡くなったが、保険金は前妻のもとに渡ってしまった。

受取人を再婚相手に変更しておけば問題がなかったわけだが、そもそも加入時に受取人を個人名にするのではなく「配偶者」とする方法もあった。そうしておけば、自動的に再婚相手が受取人になっていた。

「離婚を考えたらまず遺言を書くことを勧めますね」

妻に財産を渡したくなければ、遺留分以外は両親や兄弟姉妹に残す、ほかに残したい人がいるなら遺贈をするなどの遺言を書くのがいい。今回の相続法の改正で自筆証書遺言の保管制度が新設され、法務局で預かってくれるようになる。これにより紛失リスクがなくなるわけだ。

武内優宏
弁護士
法律事務所アルシエン共同代表。早稲田大学卒業。遺言・相続など「終活」に関わる法的問題を多く扱う。著書に『家族が亡くなった後の手続きがわかる本』(共著)など。
 
(撮影=研壁秀俊 写真=iStock.com)
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