NHKに根付く人形劇の伝統
先述したように、『チコちゃんに叱られる!』では着ぐるみの人形が使用されている。まず番組における人形の役割を明らかにするために、NHKにおける人形劇の伝統を踏まえておきたい。
実は本放送が開始された1953年からはもちろん、戦前の実験放送の時代から、テレビの主要コンテンツのひとつは人形劇だった。
その理由のひとつは、撮影や照明技術がまだ十分に確立されておらず、準備に時間を要するので、効率を重視して人間よりも人形が重宝されたという現実的なもの。他に、黎明期にテレビ受像機の普及を促すために、多くの視聴者を獲得する必要に駆られ、子どもでも見やすい人形劇が重宝されたということもあったようだ。
今日では、1956年から64年まで放送された『チロリン村とクルミの木』や、64年から69年まで放送の『ひょっこりひょうたん島』のように、長期放送の連続人形劇が製作されることはなくなった。
だが一方で、Eテレの『おかあさんといっしょ』や『いないいないばあっ!』のような子ども向け番組では、親しみやすいキャラクターとして着ぐるみや手で遣うタイプの人形が登場する。
『チコちゃんに叱られる!』のグッズやLINEスタンプは人気だそうだし、チコちゃんのモノマネをする子どもは街中やわたしの周りにも結構いる。だとすると、番組の間口を広げるのに、あのかわいい5歳児の着ぐるみが一役買っていることは間違いないだろう。
チコちゃんは現代版「シーマン」か
しかし、2017年3月24日に放送された初回パイロット版を見返してみると、実はチコちゃん、いまほどかわいくない。むしろ憎たらしい。なぜか。
このデザイン変更(番組内では「プチ整形」ということになっていた)の経緯には、何らかのトラブルがあったと推測される(ここでは検証しないので気になる方は検索などしてほしい)。それはともかくとして、新旧デザインを比較して明らかなのは、当初はもっとシニカルでふてぶてしいキャラクターとしてチコちゃんが想定されていたという点だ。
このふてぶてしいチコちゃんを初回放送で見た時、わたしはドリームキャストで発売されヒットした『シーマン~禁断のペット~』(1999)というゲームを思い出していた。
『シーマン』は『たまごっち』のような、いわゆる「育成ゲーム」だが、最も特徴的だったのはキモいビジュアルの人面魚が次のような調子で、偉そうに、でもちょっとだけ本質を突いた問いかけをしてくる点だ。
「わかりやすいわ、アナタたちってホント。どうせ単純なら、見栄なんか張らずに素直に生きた方がいいわよ」
それほど精度は高くなかったが音声認識機能を有しており、ユーザーはシーマンに話しかけ、それに対するこんな返答を得ながら育成できるというゲームだった。