代替の利かぬ技術で受注元と“協力関係”に

新しいニーズや価値を考え出し、課題を設定し、その実現に向けた方法論を考案する。それは試行錯誤と経験則に裏付けられた判断を経て成し遂げられる。どこかの「ビッグ・データ」に問い合わせれば事足りるのなら、それは付加価値が限りなく低い仕事である。

高い熟練度を要する精密加工技術が武器

現実の職場・仕事は、ルールや方法の基本はあっても、イレギュラーや思いがけない出来事の連続であり、その場ごとに乗り切る「知恵」こそが仕事の基礎である。

東京ダイスは今、そのアナログな「知恵」のデジタル化(数値化)を進めている。どういうことか。例えば、ベアリングとシャフトの間の隙間は2~3マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリの1000分の1)だが、その内径加工を行うのは、昔も今も「熟練の技」。それを誰もが再現可能とすべくデジタル化し蓄積することで、長期的な競争力を保とうというのだ。

古い職人は、地震・高熱などほんのわずかな環境の変化で生じる10ミクロン、15ミクロンの狂いを見逃さない。研磨機や切削機を操り、目盛りに頼らず音や削り滓の濁りや臭いで嗅ぎ分けて20ミクロン手前で止める――そんな職人技の数々を、数千万円を投資した“デジタル機器”に取り込む。各機械メーカーと東京ダイスのオリジナルだ。

それゆえ、例えば大手自動車メーカーから塗装用のスプレーやノズル、跳ねた石からボディー(特に床の外装)を守る樹脂を吹き付ける機器等々、特殊で高水準の注文が舞い込む。メーカーの要請を超える水準を実現する能力が頼りにされている。

東京ダイスの仕事は一見、地味ながら「ほかに代替が利かない」競争力を持つ。工場の設備・機器の自動化(ロボット化)の依頼への対応力が抜きんでている。日本の製造業の会社数は約27万社(個人事業所は含まず)で、その99.3%が中小企業。また27万社の半数がBtoBだ。BtoBとは単なる下請けの上下関係ではない。協力メーカーなのだ。東京ダイスはそうしたメーカーの代表例といっていい。企業にとって最も大切なのは規模の大小ではない。固有の競争力を持っているか否か、である。

社員の潜在能力と開発志向をどう引き出すか
●本社所在地:神奈川県横浜市
●社長:藤井克政(1951年生まれ、2代目。グラコ社を経て79年入社)
●従業員数:32名
●沿革:1948年、克政現社長の父、俊雄が創業。超精密加工技術を活かした流体制御機器、耐磨耗製品、ノズルや医療機器の精密加工を手掛ける。2016年に大田区から横浜市に移転。現在34歳の甥、亮平が3代目となるべく約1年前に入社。
中沢孝夫
福山大学経済学部教授
1944年、群馬県生まれ。全逓中央本部勤務の後、立教大学法学部卒業。約1200社のメーカー経営者や技術者への聞き取り調査を実施、具体的なミクロ経済分野を得意とする。著書に『世界を動かす地域産業の底力:備後・府中100年の挑戦』『グローバル化と中小企業』『中小企業新時代』ほか。
(構成=中沢明子 撮影=永井 浩)
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