「相手が大勢の場合でも同じです。大切なのは決裁者が納得すること。ヒアリングで決裁者が何を求めているのかを聞き出し、それに応じた展開を整えておく必要があります」

相手も自分の要望を理解した提案と感じればこちらへの信頼感は増す。しかし、成約となればよいが「納得したけれどいらない」と断られる場合もある。もう一押しすべきか。

「『そこをひとつ、なんとかお願いします』としつこく粘るのは逆効果。『わかりました。また新しい商品のパンフレットができたら、伺いますね』と残念そうな顔もしないで、爽やかに帰りましょう。今の時代、粘っても売れません。お客様のためにと商品を提示し、説明し、信頼を築いてきたのに、結局自分の都合かとなったとたん、信頼度は落ち、関係も悪くなってしまいます」

今買わなくても、半年後、もしかしたら10年後に買ってくれるかもしれない。誰かを紹介してくれるかもしれない。買ってくれなかった人と関係を切ってしまうのではなく、よい関係をキープすることが大事だと渡瀬さん。実際、優秀な成績の営業マンほど、買わなかった人との関係をたくさんキープしているという。

断られない営業マンとは?

とはいえ、断られたときの精神的なダメージを考えると、ますます口を開くのが怖くなるが、渡瀬さんは、そもそも営業は断られないという。

「お願いするから断られるのです。目の前の10人全員に売るとなるとプレッシャーですが、この商品が欲しいという人を10人から探す作業と考えれば『こういう商品を扱っておりますが、興味はございますか?』と聞いただけですから『興味はない』という答えでも、断られたわけではありません。そう考えればプレッシャーは消えていくものです」

※「プレジデント」(2018年12月17日号)の特集「話がうまい人入門!」では、本稿のほか、レクサス販売員のセールストークや全日本空輸の接客術、FBI交渉官の説得方法、「言いたいことを1分でまとめる法」など、「話し方」に関する話題を満載しました。ぜひ誌面もご覧ください。

 
渡瀬 謙
サイレントセールストレーナー
1962年生まれ。明治大学卒業後、メーカーを経てリクルートに入社。異色のしゃべらない営業スタイルで営業達成率全国トップに。現在は独立し、生保、銀行をはじめとする営業マン教育のコンサルティングを行う。
(写真=iStock.com)
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