殺害現場の“盗聴”はトルコだけで行ったのか
トルコにとっても、今回のカショギ氏殺害事件を通じて米国の反トランプ派に協力することは、対立するムハンマド皇太子を追い詰めるのみならず、トランプ政権による経済制裁取り下げという一石二鳥を狙える。そうした利害の一致を見て取ったと考えれば、トルコが元々CIAのスパイとして拘束していたはずの米国人牧師を、このタイミングであっさりと釈放して米国に帰国させたことにも合点がいく。
一方で、アップルウォッチを通じて得られたとトルコが主張する事件の音声情報について、欧米の大手メディアが現時点でその入手方法を強く疑う論調を出してはいないのは不可思議だ。
トルコが得たカショギ氏殺害の音声情報が、アップルウォッチではなく、サウジ領事館内部に仕掛けられた盗聴器によるものだった場合、トルコは国際法で禁じられている在外公館に対する盗聴監視活動を行っていたことになり、国際社会から強い非難を受けることになる。しかし現時点でトルコはなぜか「守られて」いるのである。
そう考えれば、この盗聴もトルコが単独でやったのかどうか疑わしくなる。もちろん、根拠のない推測は禁物であるが、この盗聴が最初から米情報機関と共同で行われた可能性がある。
もし、上記の仮説が正しければ、今回のカショギ氏殺害事件は米国エスタブリッシュメント層とトルコ当局による合同の秘密作戦であり、ムハンマド皇太子はまんまとその罠に引っかかったことになる。
4時間も待ち続けた「婚約者」はテロ組織と関係か
トルコの役割については気になる情報もある。サウジ政府の意向を強く受けているとされるアル=アラビーヤ紙は、カショギ氏が消えた領事館の外で4時間も同氏を待ち続けていたトルコ人の若い婚約者について、国際テロ組織アルカイダやISなどと関係するトルコ系人道支援財団「IHH人道支援基金」と関係がある人物だと指摘しているのだ。
この財団は、ドイツでの活動が禁じられており、仏情報機関もテロ組織との関係を指摘、ロシアの国連大使も「トルコ情報機関のために、シリアの過激派に武器を供給していた」と国連安保理に報告している組織である。
報道が事実であれば、この婚約者はトルコ情報機関と深いつながりがあるということになる。彼女はかつて、2015年に設立されたイブン・ハルドゥン大学のある勉強会に所属していたが、ここの理事会の副会長を務めているのはエルドアン大統領の三男である。
ちなみにこの三男は、国際テロ組織ISがシリアから盗み出した石油を大量に買い付け、違法に売りさばいていた人物だ、とドイツの主要日刊経済紙『ハンデルスブラット』などで報じられており、トルコが2015年11月にロシア軍機を撃墜したのは、シリア内戦に参加したロシア軍がこの密輸ルートを徹底的に空爆したことにエルドアン大統領が激怒したからだとも指摘されている。