現実は厳しいものでした。
創業から6年が過ぎた今でこそ、提携工場は国内55カ所に増え、ここ数年は工場の方から「うちと組んでほしい」という依頼が引っ切りなしに来るようになりました。
けれど、初めは全く相手にされなかったのです。
「工場のために苦労をしている」は図々しい
工場がきちんと利益を確保できるように、商品の価格決定権も委ねるし、名前も出してほしいとお願いしている。すべて工場のために考え抜いて提案しているのに、どうして分かってくれないんだ。
工場で働く人たちにとってもっと幸せな世の中になるように骨身を砕いているのに、少しは協力してくれたっていいじゃないか。
僕だって宿泊代を節約するために、夜行バスで往復しているんだ。せめて話くらい聞いてくれたっていいじゃないか。あまりにもひどい仕打ちなんじゃないか――。
東京・新宿行きの一番安い夜行バスの座席に身を沈めてからも、フツフツと沸き上がる負の感情は収まらず、全く寝つけませんでした。
「何なんだ。どうして分かってもらえないんだ」
車窓に見える真っ暗な風景と、まばらに流れる光を追いかけながら、僕はグルグルと考えていました。
「今、僕はすごくムカついている。でも、僕がいくら腹を立てても、彼らの態度は変わらないんだよな。そもそも、なんでこんなことをやろうとしたんだったっけ……」
バスの振動に身を任せて、カーテンの隙間から移りゆく風景を眺めていると、段々と空が白み、遠い地平線から朝日が差しはじめました。
そして、新宿駅の西口にバスが到着した頃には、僕の気持ちはすっかり変わっていたのです。
「これは、僕の夢だ。この夢を叶えて幸せになるのは彼らじゃない。僕なんだ」
ファクトリエは、誰かを幸せにするためではなく、自分を幸せにするために始めたこと。つまり工場は、僕の夢に付き合ってもらっている。
仲間になってくれとお願いするのは、僕の方なんだ。
「工場のために苦労をしている」。そんなふうに考えるのは、あまりにも図々しいんじゃないか。
そう思えた途端、視界が開けていきました。重く感じられていたトランクが、ふと軽くなった気がしました。
「僕の夢に付き合ってもらっている皆さんに感謝しよう」
考え方を180度変えた瞬間から、僕の行動の一つひとつが大きく変わっていきました。