最終下請け先である工場は、生地代や加工賃と呼ばれる人件費などのコストを引くと、利益はほとんど出ていませんでした。店頭では原価の4~5倍の値段で商品が並ぶのが相場になっています。

それも2000年代以降、国内の工場は中国製やベトナム製の安価なファストファッションとも競争しており、発注額はさらに削られる一方。つくるほど赤字になっても、下請けだけで経営を支えている工場にとってみれば、赤字から脱する手立てはなく、やむなく閉鎖を決めるケースが後を絶ちませんでした。

工場に発注する商社やアパレルメーカーもその事情をよく理解していて、生産拠点を日本から海外へシフトしてきました。国内の工場は一層、窮地に追い込まれていたのです。

このままでは、すばらしい技術や代々受け継がれた高度なものづくりのための道具、設備が行き場を失ってしまう。この危機を脱するために僕が考えたのが、「技術に見合った利益を工場がきちんと受け取れる」という新しい取引の形でした。

「すぐに手を組んでくれるだろう」という甘さ

ファクトリエでは、必ず商品をつくる工場の名前を前面に打ち出します。それによって、工場で働く皆さんも、プライドを持って仕事をするようになるはずです。これまでは取引先のアパレルメーカーや商社からFAXが届くと、工場側は「何を、いつまでに、いくらで、何着」というなぐり書きの発注書を見ながら、黙々と仕事をこなしてきました。

山田敏夫『ものがたりのあるものづくり ファクトリエが起こす「服」革命 』(日経BP社)

それが、自分たちのブランドをつくることによって、大きく変わるはずです。

また僕は、最高の商品をつくる足かせにならないよう、「価格決定権は工場に委ねる」ということも決めました。

工場には、「こういう商品を1000円でつくってください」という注文を受け身でこなすのではなく、「こういう商品をつくると5000円かかるけれど、それでもつくりたい」と提案する立場に変わってもらう。人件費や設備費をまかなえるだけの十分な利益を工場が受け取れるようになれば、持続的、発展的な経営ができるはずです。

デザインをはじめとする商品開発の主役も工場です。斬新な試みかもしれないけれど、工場にとってもいいことずくめの条件のはずです。むしろ、使われる立場だった工場に自立をうながすことができる。

だから工場も、僕の提案によろこんで、すぐに手を組んでくれるだろう――。僕はそう思っていたのです。