【橋下】そうです。憲法に入れ込むもの、入れ込んじゃいけないもの。そういうところから始めたほうがいいのかもしれません。

【木村】面白い論点ですね。では、最初は「何を憲法に書くべきじゃないのか?」をテーマに話しましょうか。

憲法は国に対する義務規定

【木村】その前にまず、憲法の基本について簡単に説明できればと思います。

『憲法問答』(橋下徹、木村草太著・徳間書店刊)

「憲法」を一言で説明すると「国家権力を縛るもの」です。国民が安定した生活を送るために、国家権力はなくてはならないものです。しかしその一方で、国家権力はあまりに強大なため、ほかの国と戦争を起こしたり、国民を弾圧したりと濫用(らんよう)される可能性があります。しかも、濫用された場合の害悪は計り知れません。

そこで、主権者である国民は、過去の国家の失敗の経験を踏まえて、そうした失敗を繰り返さないように、国家に権力を与える条件を憲法に書き込むのです。国民を弾圧しないように「基本的人権の尊重」を定めたり、権力が集中しすぎないように「三権分立」を説いたりします。憲法は、権力のあり方や、その限定を定める法典なのです。

【橋下】そうそう。憲法は極めて実務的で、国家権力をどう動かすのかを定めるものです。

ポエムは憲法にいれるべきではない

【木村】家族を大切にするかどうかは、最終的には個人が自ら考える道徳の領域の話であって、憲法に書くべきことではありません。ときどき、「家族を大事にするのは当たり前のことなのだから、憲法に書いたって、特に悪いことは起きないだろう」という人もいます。

しかし、こういった文言を憲法にうかつに入れてしまうと、せっかく憲法が定めた権利保障を解除するために使われることになります。例えば、自分ではどうにも生活できなくなった人が生活保護を申請しようとしたときに、「憲法に書いてあるので、家族の扶養でどうにかしてください」「憲法に書いてあるので、家族で助け合えない人は援助しません」といった対応を許す解釈を導く可能性があります。

【橋下】日本のこころの改正案もどうかと思いますね。前文に「四囲を海に囲まれ、四季が織りなす美しい風土の中で、時に自然の厳しさと向き合いながら、自然との共生を重んじ」と書いていますが、そういうポエムは憲法に入れるべきではありません。