岸見の答え:部下の能力を正当に認め、貢献には感謝を表す

まず自分から、部下を信頼しているか

部下にバカにされたからといって嘆く必要はありません。上司をバカにできるということは、上役の顔色を窺っていいなりになったりせず、自分の頭で考えて判断できる証拠。部下に対していつも高圧的に接していれば、面と向かってバカにされることはないかもしれませんが、尊敬されているとも限りません。ただ単に、部下が萎縮していいたいこともいえなくなっているだけかもしれない。それよりはバカにされているほうがずっとマシ。部下がモノをいいやすい雰囲気をつくれているのだとしたら、上司としては上出来です。

部下にバカにされたら嫌だと思う気持ちの裏には、上司である自分は尊敬されてしかるべきという思いがあるのではないでしょうか。つまり、上司は部下より「偉い」のだと。それは大きな間違いです。上司と部下なんて、職場における役割の違いにすぎません。上司であるだけで偉いと思っているようだから、バカにされてしまうのです。

部下にバカにされないためには有能な上司になるしかない。本当に実力のある上司なら、部下も尊敬するでしょう。ただし勘違いしないでいただきたいのは、何でも完璧にこなせるエリートたれ、という意味ではありません。上司に求められる仕事、つまり部下を適切に指導し、引き上げることに徹すればいいのです。

具体的には2点だけ押さえれば十分。ひとつは、部下の能力を正当に認めること。たとえバカにした態度でも、いっていることに理があればきちんと認める。上司である自分に落ち度があったら素直に謝り、行動を正すことです。

2つめは、部下の貢献に注目することです。部署の業績アップに部下が少しでも貢献したときは「ありがとう」と感謝の気持ちを言葉にする。そうした上司の態度は、部下にしてみれば珍しく映るはず。そういう変化を、まず上司が率先して見せる。もちろん部下が失敗したときは、同じミスを繰り返さないように、感情的に叱るのではなく、的確な指示を出さないといけない。

「どうして部下にそこまで媚びへつらう必要があるのか」と思うでしょうか。こうした部下への接し方が難しいと感じる人は、おそらく部下を信頼できていない。アドラー心理学では、対人関係の要のひとつに相互信頼があるとしています。ここで大切なのは、「相互」とはいっても、まず自分から先に相手を信頼すること。相手が部下であっても同じです。部下が自分を信頼していようがバカにしていようが関係ありません。

部下を信頼しなければ、いつまでも仕事を任せられない。たとえば、部下が持ってくるレポートや、出版社などであれば原稿が全然ダメ。だが締め切りが迫っている。こういうときに、いつも上司が自分で書き直してしまうと、部下は成長しません。

管理職としてのポイントさえ押さえれば、まっとうな部下ならそうそうバカにすることはありません。プレーヤーとしてがむしゃらに自分の業績アップを狙うような働き方では部下がついてこない。もはや現場の最前線で戦う現役選手ではないのだから、満塁ホームランを打とうとせず、コーチや監督として部下を的確に指導し、部署全体のマネジメントに努めるほうが大切です。

そもそも部下は、マネジャーである上司の仕事をわかっていないはず。プレーヤーの自分と比較して、上司の能力を値踏みできている気になっていることも多いのです。その発想を正す意味でも、管理職としての仕事に注力すべきなのです。

「現役選手ではなく、コーチや監督として仕事する」
佐々木常夫
佐々木マネージメント・リサーチ代表
1944年生まれ。69年、東京大学経済学部卒業後、東レに入社。2001年に同期トップで取締役に。03年、東レ経営研究所社長に就任。10年より現職。
 

岸見一郎
哲学者
1956年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。京都聖カタリナ高校看護専攻科非常勤講師。共著書『嫌われる勇気』は155万部のベストセラーに。
 
(構成=小島和子 撮影=大沢尚芳、森本真哉 写真=iStock.com)
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