部下が育たない時には、どうすればいいのか。LINE執行役員、ZOZOコミュニケーション室長などを務めた田端信太郎氏は「部下全員が育つわけがない。芽の出そうな部下を選別して育てたほうがいい」という――。

※本稿は、田端信太郎『部下を育ててはいけない』(SB新書)の一部を再編集したものです。

「田端大学」塾長の田端信太郎さん
撮影=榊智朗
「田端大学」塾長の田端信太郎さん

長期雇用・年功序列・緊密な職場関係は崩れた

現代のリーダーは、さまざまな仕事を抱えて本当に忙しい。

なかでも悩ましいのが「部下が育たない」ことだ。上からは「部下を育てろ」と言われるが、なかなかうまくいかないことも多い。

このような状況に対して、「自分の教え方に問題があるのだろうか? リーダーに向いていないのかもしれない」と自分を責める人がいるかもしれない。しかし今や、「若い部下が育たない」のは職場環境の変化によるところが大きい、という見方が一般的である。

その背景にあるのが、「長期雇用」「年功序列」「緊密な職場関係」の3つが崩れたことだ。

長期雇用であれば、人はすぐに結果が出なくとも長い目で見てもらうことができるし、多少の失敗なら許される。年功序列なら上司の背中を見て、上司と同じような生き方をすれは自然と出世できる。人間関係が緊密な職場なら、上司と先輩が部下と長い時間を一緒に過ごすことになる。

これだけの環境が整っていれば、わざわざ時間と労力をかけて育てなくても、人は自然と育っていくものだ。今やほぼ何の役にも立たない人事部主催の研修がかつては機能しているように見えたのも、それが役に立っていたわけではなく、人が勝手に育っていたからだ。もちろんその人たちが全員、どんな会社でもずば抜けた結果を出せる超優秀な人材に育つかというとそうではないが、少なくともその企業が必要とする人材は育っていた。

「部下を育てる」=「組織の目標達成」ではない

ところが、今では「長期雇用」「年功序列」「緊密な場関係」の3点セットは絵にかいた餅になってしまった。企業に人を長期間雇用する余裕がなくなれば、人を育てる余裕がなくなるのも当然のことだ。

ましてや人材が多様化し、かつての日本企業にあった「正社員の育て方」「男性社員、女性社員の育て方」などといった杓子定規のマニュアル的な手法が通用するはずもない。このような状況下では、いくら上から「人を育てろ」と言われたところで、「部下が育つ」ことはあり得ない。

そしてそもそも、「部下を育てる」ことと、「組織の目標を達成する」ことは短期的にはトレードオフの関係にあり、両立しにくい。

「部下を育てる」のには時間も手間もかかる。にもかかわらず、リーダーが上の指示に従って「部下を育てる」ことに多くの時間を割く。その結果として、部下は多少育ったかもしれないけれど、組織目標は達成できなかったとしたら、会社が「君は目標は未達だったが、部下を育てたのでよしとしよう」と言うかと言えば、それはもちろんNOである。

こうした状況におけるリーダーとしての正しい選択は、「自分の限りある時間をある程度割いてでも指導する価値がある人間か否かを選別して、その価値のある人間だけを育てる」ことだと私は考える。