背景にはインターネットの普及がある。ウェブによるマッチングの仕組みが登場したことで、企業が雇用したスタッフを家庭に派遣する方式の他にも、ウェブ上のプラットフォームを利用して個人と個人が直接契約する方式が広がっている。このプラットフォーム方式は、運営の間接経費が低いため、手軽な料金が実現する。一方で働き手も空き時間を活用した労務の提供で、より高い報酬を得ることができる。女性が社会で働き続ける時代にあって、今後の拡大が見込まれる新しいビジネス領域となっている。

こうしたサービスを週に半日ほどでも利用できれば、行き届かなかった家事は大きく改善する。利用料金は一般に1時間2000~3000円なので、毎月の負担は2~4万円程度で済む。

創業者自身が「共働き夫婦」で苦しんでいた

タスカジの誕生は、こうした不満を創業者自身が抱えていたからだった。タスカジの創業者である和田幸子氏は、家事・育児をシェアしながらの夫婦共働きの日々に疲れ切っていた。家事代行サービスをあれこれ調べてみたが、当時の状況では高額なサービスが中心で、普通の共働きサラリーマン家庭には手が出なかった。

和田氏がストレスをため込んでいたある日、「海外では生活スキルを提供する人と依頼者が個人間で契約する」との話を聞いた。その瞬間、「これだ」と思ったという。個人の空いた時間をシェアすればよいのだ。

話を聞いた1週間後に会社に辞表を出した。

重要な課題は「サービス提供者の数を揃えること」

和田氏はシステム・エンジニアだった。在職しながら慶應義塾大学のMBAで学んだこともあった。タスカジの開設にあたっては、それまでの経験を存分に活かした。SNSで企画書にアドバイスをくれる人を募り、フィードバックをもらいながらサービスのつくり込みを行い、事業上のリスクをつぶしていった。

さらにウェブ上だけではなく、紙を使った机上のマッチングのテストを3人の依頼者と3人のスキルの提供者の間で試み、実際に訪問してサービス提供を行った。すると、「提供者が依頼先に行く途中で道に迷う」「依頼者に当日になって急用が舞い込む」といった対処すべき課題が次々に明らかになった。

こうした実験を経て方針を定めたら、手を尽くして価格、利用ルール、利用規約、システムイメージや運用ルールなど、細部をつくり込んでいく。これがサービスを運用するためのシステム開発の基本なのだという。

とはいえ和田氏が、開業前にスキなく、すべてのリスクを見通せるようになっていたわけではない。ようやくできあがったプラットフォームが、その価値を発揮するには、登録会員を集めなければならない。とりわけ重要なのは、サービス提供者の数を揃えることだった。

しかしプラットフォームをウェブ上にオープンするだけでは、登録者は集まらない。募集広告を打ちたいところだが、この時点で和田氏はシステム開発で開業資金をほぼ使い果たしていた。