週の半分をリモートワーク、通勤自体をなくすという案

さて、これから検証されるであろう時差Bizの成果についてもふれておきたい。このような取り組みを短期間の結果で評価するのは難しい。しかし時差Bizという目新しい名前がついてはいても、通勤時刻だけに注目すると、何十年も前から取り組んでいる時差通勤である。これまで時差出勤によってラッシュ時の混雑は緩和されたとはいえず、名前を変えたからといって、急に成功するとは思えない。

どうしてこれまで時差通勤が浸透しなかったのか。最大の理由は、当の乗客が時差通勤するメリットを感じられないからだろう。

時差通勤の主流は出社時間を前倒しする早朝通勤だ。後ろにずらすのと違い、前倒しは時間に限界がある。いつも午前8時に家を出る人なら、せいぜい7時がいいところだ。路線や乗る駅にもよるが、7時台では座れないことが多い。8時台より混み具合はましであるものの、睡眠時間を1時間削るだけの価値があるのかどうかは微妙なところだ。自分が前倒しで電車に乗ると、いつも乗っている電車の混雑が緩和されて、ギリギリまで布団で眠っている人が結局のところ、得をするというジレンマもある。これでは疲れた体に鞭打って早起きするのがバカらしくなるに違いない。

これよりは、時間を後ろにずらす時差通勤を提唱したほうがまだいいだろう。後ろなら、ピークから1時間遅くなっただけで座れる可能性は高くなるし、そもそも前倒しと違って限界がなく、2~3時間遅れでもいい。

しかし、このように時間をずらして出社したとしても、社内での仕事の連携、勤務時間の算定、成果の評価など企業の働く環境を整えていかないと、「個人が勝手にやっているだけ」になってしまう。

時差通勤はメリットがわかりにくい。そして時差通勤がうまくいかないのは、そもそも何時に出社すると楽なのかという狭い枠組みで考えているからである。自分たちの働き方のクオリティをいかに高めるのかという大きな枠組みで考えれば、仕事の仕方が変わり、通勤の在り方が変わってくる。たとえば職種によっては週の半分をリモートワークにして、通勤自体をなくすというのもいいだろう。働き方の全体像から入り、結果として通勤が楽になるという流れで思考しないと、時差通勤は定着しないと思われる。

東京の鉄道の混雑は異常である。ヨーロッパの研究論文に、「最近、電車の混雑がひどい。なんと座れなくなったのだ」という一節があった。私たちは混雑に慣れてしまい感覚が麻痺しつつあるが、乗車率200%のようなありえない空間に身を置いていることを、もう1度思い出したほうがいいい。無理のない生活をするために、いまこそ働き方そのものから見直すべきである。

田口 東(たぐち・あずま)
中央大学理工学部教授
1951年、千葉県生まれ。東京大学工学部計数工学科卒業、工学博士。三菱重工業、東京大学、山梨大学を経て、中央大学理工学部教授。交通ネットワークを対象とする数理解析に興味を持つ。
(構成=村上 敬 写真=時事)
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