加えて「過去の事例といった“うんちく”はいらない。自分で考え、自分で仕掛ける」という自前主義を貫くことも強調します。地域外の有名演出家を美術館に呼んでくるのではなく、道内にいる照明や音響のプロたちに美術館に関わってもらい、展示や演出を常に変えています。

単に数字上の経営だけでなく、人との約束を守り、地域の人たちとの協力関係を築いているからこそ、この美術館はユニークであり続けています。

ディマシオ美術館の展示の様子(写真=ディマシオ美術館提供)

実業家が切り開く、地方とアートの新しい関係

このような実業家によるアートが地域に大きなインパクトを与えているケースとしては岡山県倉敷市、美観地区を支える大原美術館が歴史、規模ともに有名です。倉敷紡績、倉敷絹織などを創業し、大実業家だった大原孫三郎。彼が私財を投じて収集したアート・コレクションを展示するために1930年に開業したのが、大原美術館です。開業当初はあまりの先進性に、周囲から「金持ちの道楽だ」と言われ、入館者数0人の日も珍しくなかったと言います。しかしながら、今では年約30万人の人が訪れ、2017年には累計入館者数3500万人を突破。さらに大原美術館のある美観地区は年間約300万人超の観光客が訪れる、日本有数の観光拠点になっています。

常識破りな実業家が作り出す、地方とアートの新しい関係が「まち」を変えていく。アートイベントばかりではなく、継続可能な経営かつ地元に根付く取り組みがより多く誕生することが必要とされています。ディマシオ美術館では今後、地元経済効果も大きくなるオーベルジュの併設といった拡張計画も準備中です。谷本氏の挑戦は、地元への影響だけでなく、全国各地にも希望を与えています。

 

関連記事
セブンが勝てない「最強コンビニ」の秘密
"過疎地域"のスタバに大行列ができるワケ
岡本太郎が「太陽の塔」を突き刺した真意
地方経済を救うのは"後継ぎベンチャー"だ
法隆寺とパルテノン神殿の「柱」の共通点