「うちでは性について早期教育はしない」はNG
1994年から2004年にかけて、教育省で性教育プログラムの立ち上げに尽力した教員、シャンタル・ピコ氏は、
「家庭だけでは不十分なんです。親の意思で、会ったこともない祖国の男性と強制的に結婚させられたり、衛生的にも問題がある方法で性器切除をされるアフリカ系の女の子もいるのですから。学校で、この国では性をどのように考えるか、なにが禁止されているか、という枠組みを教え、自分の身を自分で守れるように導かなければ、子どもたちには他に情報を得る場がないのです」
と語る(※2)。
教育省がこのような強気の立場に立つのは、移民を受け入れる以前から、雑多な民族の集まりであったという歴史があるからだ。現在も、地方語だけで、アルザス語、ブルトン語、コルシカ語、プロヴァンス語などがあり、20世紀初頭まで、国民の半分はフランス語を話せなかった。このことからわかるように、フランスは多民族の寄せ集め国家なのだ。
だからこそ、1881年、教育者ジュール・フェリーは、「出自いかんにかかわらずフランス共和国の子どもたち全員に、同じ教育を与えよう」と言い、良くも悪くも、国民を、言語や地方性、民族性、宗教性といったそれぞれの特殊性から引き離し、均等な国民を育てることを主旨とした義務教育の無償化を唱え、無宗教の公立学校システムがスタートした。
各家庭の教育方針の差があまりにも大きいからこそ、学校は、共和国で一緒に暮らすために皆に共通するルールを学ぶ場なのである。性教育もその例にもれず、家庭の方針いかんにかかわらず、社会ルールの一環として教育される。保護者が学校に出向いて、「うちでは性について早期教育はしない主義です!」などとねじ込むことはできないのである。
※1:https://www.theatlantic.com/international/archive/2017/10/the-weinstein-scandal-seen-from-france/543315/
※2:Causette #58, Gynnthic, juillet-Aout, 2015
ジャーナリスト
慶應大学文学部哲学科美学美術史専攻卒。1988年に渡仏後、ベルサイユ市音楽院にて教会音楽を学ぶ。現在、パリ市のサン・シャルル教会の主任オルガニストを勤めると同時に、フリージャーナリストとして活動。WEBRONZA、ハフポスト、共同通信デジタルEYE、日経ビジネスONLINEなどに寄稿。労働、教育、宗教、性、女性などに関する現地情報を歴史的、文化的背景を踏まえた視点から執筆している。