私は1970年代後半に日本で、それもリベラルな校風の中学校で保健体育の一環として性教育を受けた世代だ。それでも精子と卵子が一緒になって子どもができるのはわかったが、肝心の「セックス」に関する説明がなかったため、なにかしら騙されたような感じがしたのを鮮明に憶えている。だからといって、家でセックスについて質問するなどとてもできる雰囲気ではなかった。

私にとって、このフランス流の性教育はショッキングだった。

「愛情生活と性に関する授業」の内容

2001年から教育法に導入され2003年から実施されているこの性教育だが、教育省学習指導要領によると正式な呼称は「愛情生活と性に関する授業」。そのターゲットはまず「愛情生活」なのだ。

特徴は子どもたちにどんどん話をさせる「生徒参加型」であることだ。羞恥心や罪悪感の除去、タブーなし、隠しごとなしの早期教育である。

幼年学校から小学校2年生(2歳~8歳)……家庭での男女の役割や「らしさ」に疑問をもたせる
小学校3年生から中学校2年生(8歳~13歳)……思春期の身体発達、生殖のしくみ
中学校3年(13歳から14歳)……避妊、中絶、性病予防
中学校4年生から高校1年生(14歳~16歳)……性的他者、性差別、ポルノグラフィー
高校2年(16歳から17歳)……生殖医学、性的自認

本来ならば私生活の領域である「性」や「愛情生活」に、ここまで学校が踏みこむことが妥当なことだろうか? 各家庭なりの意向もあるだろう。それはどうなるのか?

日本の小学校で教員を務める私の友人は、「性に関しては、さまざまな考え方の親がいるから、バッシングが怖くて立ち入れない」と語る。

しかし、フランスには、日本以上に「さまざまな考え方の親」がいる。

約30パーセントの国民が、移民の祖父母か両親をもっている移民大国だ。

各家庭の性に対する感覚はおのずと民族性や文化、宗教性を反映し、千差万別となる。子どもが「今日、彼女が泊まりにくるんだけど、コンドームある?」と親に衒(てら)いもなく聞く家庭もあれば、宗教的理由で結婚前の男女のデートを禁止する家庭もあるのだ。