「コウノトリが赤ちゃんを連れてきた」は通用しない

息子に何も性教育らしきことはしなかったのに、彼のほうはしっかり避妊を学んでおり、おまけに、親を相手に性的なことを話すことにまったく羞恥心を抱いていないらしい。そのことに気づいた私は、フランスの学校では、どのように性について教育しているかに興味をもち始めた。

そんなある日、フランス5(サンク)局のニュースで、ドルドーニュ地方の公立小学校の授業例が報道された。8歳の子どもたちのクラスである。

「ペニスから出てくる液体ってなーに?」という講師の問いに、「おしっこ!」と答える男の子がいるかと思えば、「精液!」と、恥ずかしがらずに堂々と答えている優等生っぽい女の子もいる。

生徒たちは極めて真面目な表情、ニヤニヤする子どもは一人もいない。男女の身体構造の違い、生殖の過程などをイラストを見ながら学び、そして子宮、精液、睾丸、射精といった単語を習う。「おちんちん」と言うのではなく「ペニス」と言い、「おっぱい」ではなく「乳房」。「赤ちゃんはキャベツから生まれる」や「コウノトリが赤ちゃんを連れてきた」などという子どもだましは皆無である。

「恋人もオーケーと言うならセックスしてもいい」

プランニング・ファミリアル(注)と呼ばれる非営利団体から派遣された講師は言う。

注:中絶を合法化する運動の元締めとして1956年に創立された非営利団体。当時はピルの密輸入や秘密裏の中絶手術など、非合法的活動も辞さなかった。現在は、避妊、中絶、レイプ、DV、セクハラ、強制結婚、アフリカ移民の慣習である性器切除、性病予防などについてのアドバイスを受けることができる。無料匿名での産婦人科医の診療、学校での性教育に講師を派遣する役目も負っている。

「たしかに私たち、大人にとっても言いにくい言葉があります。でも、どうして恥ずかしいのでしょう? 性は悪いこと、どこかでそんな偏見があって、それが羞恥心につながるのではないかしら? だからまず、根拠のない羞恥心を除く、そして、幼児語ではなくて、科学的に正しい単語で性について隠しごとをせずに話す。それが、男性も女性も同じ土俵に立って対等に性について話し合うことができるようになるための最初の一歩なんです」

さらに新鮮に感じたのは、「好きな人がいたらセックスしなくちゃいけないと思う?」と、講師が子どもたちに質問していることだ。

「義務っていうわけじゃないと思うけど……」
「大人になって、恋人もオーケーと言うならセックスしてもいい!」という可愛い返事が聞こえてくる。