銀行の「BtoC向け広告」は中途半端
――金融業界は、なぜマーケティング不在なのでしょうか。
ずっと親方日の丸で守られてきましたからね。たとえば「三菱東京UFJ銀行」は、今年4月、銀行名から「東京」がなくなり「三菱UFJ銀行」になりました。そもそもこんな長い名前をお客様に書かせていたこと自体、顧客目線がないことの証明です。
日本では、銀行も証券会社も保険会社も基本的にマーケティングができていない。特にブランディングは下手ですね。証券会社は手数料の安さ以外に本当にブランディングできているところがどれだけあるのか。
銀行もブランディングは、ほとんど未開拓です。そもそも金利で差がつかないのに、どこで差別化するのかはっきりしていない。金融はBtoBで儲かっているので、BtoCは重要と思っていないのかもしれません。でも、BtoBのBも家に帰ればCです。つまり法人顧客も家に帰れば消費者。
ブランドイメージは、対コンシューマーのイメージの積み重ねでできています。「Cは意味がないから優先順位を下げている」と割り切っているならいいですけど、銀行は中途半端にBtoC向けの広告をやっている。そしてその広告を見ると、言いたいことがわからない。最も大切なブランドの設計ができていないからです。
ここをちゃんとブランディングすれば、日本の個人資産を投資に回すサイクルをつくれます。約1800兆円を超える「眠ったままの個人金融資産」が有効な投資に回れば、それは日本にとっても生きたお金の使われ方になる。大いに社会的意味があります。それができるのがマーケティングです。
とくに小売りと金融にはマーケティングによる大きなチャンスがあると思っています。
優れた戦略も組織がないと意味がない
――森岡さんはマーケティングの専門家ですが、新著『マーケティングとは組織革命である』(日経BP社)では、「組織」のあり方を論じています。なぜ「組織」に関心をもたれたのでしょうか。
どんなにマーケティング戦略が優れていても、組織がそれを実行できなければ意味がない。マーケティングを実行するのは組織です。戦略という頭があっても組織という身体がついてこなければ机上の空論になってしまう。私がサッカーの技術を完璧に頭で理解していたとしても、それを表現するアスリートの身体を持っていなければ、本田圭佑選手にはなれないのと一緒です。
だから私がUSJの業績をV字回復させたときも、マーケティング戦略を立てるだけでなく、同時に組織改革を行うことが絶対に必要でした。私にとってはマーケティング論と同じくらい、組織づくりも重要なんです。マーケティングの入門書や、私独自の数学を使ったマーケティングの理論書はすでに出版しているので、組織を変えるノウハウも本にしたかったのです。