「ルックイースト」で日本に範を求めたマハティール氏

アジア通貨危機を引き起こしたのはアメリカのヘッジファンドによるサヤ抜き目的のカラ売りだ。これに対してマハティール氏は投資家ジョージ・ソロス氏の実名を挙げて「ソロスのようなユダヤ人がイスラム国家を崩壊させようとしている。わが国に対する挑戦だ」と証拠もなく批判を始めた(ソロスは関与を否定していたし、カラ売りの主犯は著名なヘッジファンドマネージャーのジュリアン・ロバートソンだった)。

当時のアメリカではソロス氏は人気があったし、アメリカのメディアやジャーナリズム、経済学などのアカデミズムもほぼユダヤ系が占めているために、マハティール氏の発言は猛反発を受けた。

一方、「ルックイースト」で日本に範を求めたマハティール氏に対して、アンワル氏はアメリカとの関係を強化することで祖国の発展につなげたいと考えていた。アメリカの議員団を招いて国際会議を主催してマレーシアの将来性をアピールするなど、積極的に関係を構築していた。

アジア通貨危機の際にもアメリカの政治家にコンタクトを取ってマレーシア救済に動いてもらおうとしたのだが、そうした動きがアメリカとの対立を深めていたマハティール氏の気にいたく障った。彼の目には「アメリカの言いなりになって国を売り渡す危険人物」と映ったのだろう。

一時の感情に任せて、有力な後継者を切り捨てた

私から見てアンワル氏は非常によい後継者だった。善意に解釈すれば、アメリカに接近したのも国際的なバランス感覚のなせる業と言えなくもない。しかしマハティール氏は一時の感情に任せて彼を切り捨て、有力な後継者を失った。ゆえに私は通信簿に1を付けたのだ。

アンワル氏が政治の表舞台から去った後、副首相を務めたアブドラ・バダウィ氏が03年に引退したマハティール氏の後を受けて第5代首相となった。清廉で国民に親しまれるリーダーだったが、総選挙で大敗した責任を取って任期途中で辞任。後を受けて09年に6代目の首相になったのがナジブ・ラザク氏である。

ナジブ前首相は父親が第2代首相、叔父が3代目首相という家系で、もともと首相候補の1人だった。中華系民族が経済を牛耳っているマレーシアでは、格差是正のために先住のマレー系民族を優遇する「ブミプトラ政策」が長らく取られてきた。