「今までになかった=おもしろい」ではない

よく放送作家と話していて、「こういうの一番ムカつくよね」と意気投合するのが、「SMAPと嵐のガチンコ相撲対決みたいなことをやったら、絶対視聴率が獲れます」みたいな企画書です(もちろんSMAP解散前の話です)。

いやいや、そもそもその2組を同じ番組でキャスティングできないですから!

こういう企画書を書いてくる人は、えてして悪人ではなく、むしろ優しくて素直な人格の持ち主なのですが、「今までになかった、想像を超えたものこそおもしろい」と勘違いしています。

でも本当はそうではなくて、「想像できるものじゃないと、おもしろくない」。現実的に形にならないものは、おもしろくならない以前に、ビジネスとして成立しないのです。

想像力こそが仕事の武器

この話をする時に思い出すのが、あるスタッフの話です。彼は現場で「信用できない」「嘘つき」などと言われていました。

角田陽一郎『運の技術 AI時代を生きる僕たちに必要なたった1つの武器』(あさ出版)

彼はとある芸術家に喜々として「1万色の新しい絵の具を使って、あなたが思い描く絵を番組で実現します」と提案しました。彼にしてみれば、芸術家に対する無邪気な最大限の賛辞として「1万色」と言ったのだと思いますが、実際用意するとなったら、絵の具1色を作るのに1000円かかるとすると1000万円もかかります。

そんな制作費が捻出できるわけがありません。彼は善人ではありましたが、想像力がなさすぎました。結果、周囲から見れば「嘘つき」というわけです。

僕らテレビマンが心がけるべきなのは、むしろ「手持ちの絵の具が12色しかないけど、どうやって表現豊かな絵を描けるか」を考え抜くこと。1万色だの、SMAPと嵐で相撲だのといったことを軽々しく言うほど想像力のない人に、「創造」力なんてあるわけがない。彼らは想像を超えたところにゴールがあるなんて思っていますが、ゴールは僕たちが想像する脳内にしかありません。

余談ですが僕も以前、あるタレントさんのマネージャーから「お前は想像力がない」と怒られたことがあります。でもそれは「1万色絵の具」の彼とは違います。なぜなら、僕は怒られることまでコミコミで想像していたから。

そのマネージャーの言う通りにやったら番組が成立しないから、彼に怒られることまできっちり想像力を働かせたうえで、適度に怒られながら「すみません」と言っているわけです。想像力こそが仕事の武器なのです。