※本稿は、村上卓史『放送作家という生き方』(イースト新書Q)の第2章「放送作家とは何か」の一部を再編集したものです。
バラエティ番組の台本は面白さの最低基準
放送作家を目指す人からよく受ける質問のひとつに「タレントさんのセリフは台本通りなのですか?」というものがあります。これはバラエティ番組においては、「NO!」です。出演者の皆さんは可能な限り、自分の言葉で語っています。
「じゃあ、放送作家とか台本なんていらないんじゃないの?」とたたみかけられますが、これに関しても「NO!」と断言できます。台本は、出演者がその場面における自分や共演者の役割を理解するための指針となっています。司会者は制作スタッフが目指している方向へ導いていこうとしますし、アシスタントは司会者へのフォローに徹します。ゲストもシニア層はその世代ならではの見解で答えますし、おバカタレントはおバカでおちゃめなコメントになるようにトークに口を挟みます。また、芸人さんはその場があえて乱れるような言動でみんなを巻き込みますし、アイドルは天真爛漫な答えでその場を和ませます――というように、キャラや言ってほしい方向性が記された台本という参考資料によって、それぞれが振る舞ってくれるのです。
芸人はいつも「台本以上」を狙う
もちろん、どうしても言ってほしいコメントも存在しますし、いかにもその芸能人が言いそうなセリフを書くようにしているので、台本通りのセリフになることはよくあります。ただ、芸人さんはどんな状況でも、たいていは台本以上に面白いことやエッジの効いた言葉を言おうと、常に機会をうかがっています。書く放送作家もわかっているので、そのまま言われようが言われまいが、自分で思い浮かぶ最高のセリフや掛け合いを台本に用意します。芸人さんはこれを超えようとしてくれるので、結果的に笑いを誘発する可能性が増すというわけです。
台本のセリフが番組の最低限の面白さであり、その初期設定を高くすればするほど、出演者の能力を引き出せることになり、結果的に想定以上のシーンを作り出せるということになります。なので、何度も頭の中でシミュレーションしながら、少しでも気の利いた言葉や展開が生まれるように吟味しています。