でも、それですんなり移住……とはいかなかった。

「取材や遊びも含めて月2回程度長野を訪れ、友人に人を紹介してもらい顔を出す。夜は地元の飲み屋で情報収集、という生活を続けました。そのうえで妻を『旅費は出すから』と説得して、5回ほど一緒に長野へ連れてきたのです」

長野市は山間部に比べ寒さは緩く、雪も少ない。ロードサイドに大型店もそろう。近くに温泉も充実しているなど“魅力的なプレゼン”を行い、現地で実感してもらうことで奥さんの気持ちを軟化させたという。

時間をかけて現地情報を収集したが、物件探しには手間取った。実は長野の家は現代的な住宅だ。大手住宅メーカーの一戸建てで、家賃は月10万7000円。東京の家より高い。

「長野はプロパンガスの住宅が多く、この広さだと冬の光熱費は都市ガスの倍の3万円はかかるといわれていましたから、都市ガスの使える物件を探しました。寒さの苦手な妻に快適に住んでもらうため、最新設備の家に決めました」

実際に生活を始めると、宅配便の荷物の到着日に東京(あるいは長野)には不在。ごみの収集日が生活スケジュールに合わないなど、想定外の事態が続いたという。

「賃貸×賃貸」ゆえ、家賃だけで月に18万2000円かかり、移動時の交通費も長野と東京の往復新幹線代が1回約1万6000円(片道8000円)だ。長野在住時の移動はクルマなので維持費やガソリン代もかかり、月の生活費は約40万円。会社を経営して業績好調なので対応できるが、賃貸での二拠点生活はコストも倍増する。だが、それを上回る収穫も手に入れた。

「東京では片道50分の通勤がストレスでしたが、現在は自分でスケジュールを組めます。基本的に東京や地方取材では情報収集で動き回り、長野ではデスクワーク中心です。午前中に仕事を終えて、昼頃にクルマで10分の温泉施設に行き風呂ざんまい。出た後は食事も楽しめます。編集者という仕事柄、自然に近い安心感、クルマのない不便さなど企画の発想も広がりました。飲食業支援を行うなど、個人同士をつないでもいます」