田舎ではデスクワークがはかどる

2人のような「二拠点生活」の実践者に聞くと、表のような「5カ条」が浮かび上がった。それぞれ説明が必要だろう。

▼二拠点生活5カ条
(1)クルマか電車で2時間以内
(2)地域になじむ努力を行う
(3)素直に喜ばれる都会土産を活用する
(4)寒冷地は雪下ろしを覚悟
(5)現地でできる仕事に集中する

(1)二拠点目に沖縄や北海道を選ぶ人もいるが、時間と資金に余裕がないと頻繁に行けない。東京近郊なら茨城、栃木、群馬、長野、山梨。大阪近郊は兵庫、京都、岡山が一般的だ。

(2)は、地域の会合や祭りなどに積極的に顔を出すということ。柿次郎さんが企画して実現した地元の人たちが集まる飲み屋も、交流を深める場としては有効だ。

(3)は「都会風を吹かすようで……」とためらう人も多いが、野島さんによると東京土産などは素直に喜ばれる。老舗の和菓子や有名店のコーヒーなど「こちらにはない」と歓迎される例も多い。

(4)は、雪作業が苦痛な人にはお勧めできない。ちなみに筆者の知人が、冬に静岡県から山形県に赴任した際に言われたのは、「雪が降った翌日は、30分早く起きて屋根とクルマの雪下ろしをしなさい。最初にクルマのエンジンも温めておくように」だった。

(5)は、どこでもネットがつながれば仕事ができる。前述のスポーツ紙編集委員も、当時は同紙のオンライン記事の管理人を兼務していた。朝に田んぼで作業した後に戻り、ネットの内容をチェックしていたのだ。一般の会社員でも、雨の日や雪の日の現地は、逆にデスクワークがはかどると聞く。

二拠点生活の実践者は全員、「どうせ行うなら早いほうがよい」と話していた。農作業と同じでエネルギーのあるうちに鍛えないと、体力が衰えてからは厳しくなる。20代から田んぼに出ていれば80代でも働けるが、60歳まで都会で事務作業をしていた人が、いきなり農作業ができないのと同じだ。

一方、故郷で暮らす老親の世話という視点で“二拠点生活”をする人も増えてきた。この場合「いまさら故郷に戻りたくない」「自分の生活の範囲内で親を見守りたい」という意識がある。「長年離れて暮らした親子が、何十年ぶりに一緒に住んでも衝突するケースが多い」と専門家は指摘する。老親が介護生活に入る前の対応といえるが、仕事の出張のようなもの。同じ場所に頻繁に行く場合、最初はホテルに泊まっても、やがてマンションを借りたりするからだ。

今回紹介した事例は「働き方改革」や「副業」にもつながる。二拠点生活は意識の転換にも役立ちそうだ。

(撮影=永井 浩、小林直博)
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