刑務所で断酒するために「居酒屋で日本酒一升」無銭飲食

でも、その行動には虫がいいと思える部分もある。

写真はイメージです(写真=iStock.com/designymk)

彼らは、酒をたっぷり飲んだうえで、最小限のリスクで捕まる「戦略」を立てているのである。飲み始めると自分を制御できず、下手すれば人を傷つけかねないが、それは避けたい。執行猶予期間中に罪を犯せば、前回の判決も加味されて実刑にしてもらえる(刑務所に入って断酒できる)ので、そう大きな事件である必要はない。そのためには何がいいか……。

その結果、選ばれやすいのが居酒屋での無銭飲食(事件名は詐欺)である。その際、酔って暴れ、他の客ともめたとしても、店員が止めてくれるから大事にはなりにくい。

所持金を持たずに入店し、素知らぬ顔でオーダーするのはどんな気分なのか。検察や弁護人が尋ねても被告人の答えは曖昧だ。

「捕まる気でいたから、細かいことは考えませんでした」
「頭の中が酒でいっぱいで、それ以外のことは気になりませんでした」

▼「(逮捕され)これで飲まなくてすむんだと思ったらホッとした」

いずれも本音なのだろう。被告人にしてみれば“最後の晩餐”である。大事なのは、いかにたらふく飲み、スムーズに捕まるかなのだ。

覚悟を決めた被告人たちの多くは日本酒換算で軽く一升は飲む。ビールに始まり焼酎、日本酒まで、閉店まで粘りに粘ってフルコースを堪能するのがパターンだ。そしてお約束のように会計時に少し抵抗してから捕まる。

「逮捕されたときのことは覚えていませんが、意識が戻ったら警察にいて、これで飲まなくてすむんだと思ったらホッとしました」

まるで捕まえてくれてありがとうと言わんばかりの態度に、なった人にしかわからない、アルコール依存症のつらさが現れていると僕は思う。話を聞けば聞くほど、被告人たちは――酒のことを除けば――普通の人たちで、十分に更生できる可能性があると思う。

アルコール依存症と戦いながら日々を過ごしている人は大勢いる。当然ながら彼らのほとんどは犯罪者にもならず、ストイックな生活を貫いている。非依存者には、彼らが今日も一日飲まずにいることの大変さを理解することはできない。できるのは邪魔をしないことくらいなのかもしれない。

まずは、酒を飲みたがらない人にかける、この一言をやめることから始めてはどうだろう。

「まあまあ、野暮なことは言わないで、一杯だけ付き合えよ」

(写真=iStock.com)
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