半年断酒していた被告「カップ酒1本なら……」で崩壊
断酒も半年にさしかかった頃、出社途中の被告人は、駅のホームでカップ酒をうまそうに飲むオヤジの姿を目に入れてしまう。見てはならないと思うのだが、目が離れず、足が止まった。
カップ酒1本ならいいのではないか。いや、日本酒はにおうからやめておこう。ビールだ。缶ビール1本だけ飲んで会社に行こう。自分は半年間も断酒に成功している。1本だけ飲んだら普段どおり会社に行き、また断酒生活を始めよう。
そう考え、いったん駅から出てコンビニでビールを買い、路上で飲み干したら止まらなくなった。
かすかに覚えているのは、コンビニに戻ってカップ酒を2本立て続けに飲んだところまで。しこたま酒を買い込んで自宅に戻ったことも、会社を無断欠勤したことも、そのまま日が暮れるまで飲み続けたことも記憶には残っていない。
捕まったのは、夜になってコンビニに酒を買い足しに行ったとき、金を払わずに店を出ようとしたためだった。家に財布を忘れてきたが、どうしても飲みたかったので盗んでしまったのだ。店員に声をかけられるとフラフラの状態で殴りかかり、タチが悪いということで警察に通報されてしまった。
▼裁判官「一滴でも飲んだら努力が台無しになるとわかったはず」
被告人は二度と飲酒しないと誓い、執行猶予付き判決を受けたが、裁判長は病院で治療を受けることと、断酒を続けるための組織に入るように念を押した。
「アルコール依存症を克服するには、生涯酒を口にしないことしかありません。あなたは今回、一滴でも飲んだら努力が台無しになることがわかったはずです。ひとりで克服してみせるなどと甘いことは考えないでください」
もう酒なんてこりごりだ、一生飲むものかと心に誓う。治療を受け、「断酒会」にも参加して同じアルコール依存の仲間と励まし合い、立ち直る人もいる。
一方で、施設になじめず、自力でなんとかしようと考えて退会する人も多いと聞く。しかし、ひとりで立ち直るのは至難の業。酒の誘惑から逃れることができず、またしても事件を起こしてしまう人も少なくない。
もちろん自業自得ではあるのだが、別のアルコール依存症の被告人には同情を禁じ得ないケースもあるのだ。酒から逃れるために、わざと罪を犯して捕まろうとする人である。刑務所に入れば否応なく酒を断つことができるからだ。