日の丸は「悪の象徴」

日の丸は現場全体を通して「悪の象徴を表す小道具」として多用されていた。当然ながらその扱いは非常に雑で、何枚かの日の丸が地面に落ちて土が付着していたが、誰も気にしておらず、無意識に足で踏みつけている人すらいる。仮に日本で他国の国旗をドラマの小道具で使うことがあったとしても、こんなに雑に扱うことはしないだろう。

夕方になると、どこからともなく仕出し弁当が支給された。滞在中の食事はすべてこの弁当で、メニューは日替わりだが米は固すぎたり柔らかすぎたりと、味はイマイチ。スープはラーメン屋にあるような巨大な寸胴鍋に入っており、紙製のお椀に自分ですくい入れる。スープも冷め切っていたが、売店やレストランなどが徒歩圏内には一切ないため、これで腹を満たすしかない。監督だけはプラスチック容器に入れられた特注の弁当を食べていたが、映像制作の現場では、監督はやはり別格扱いなのだろう。

日本兵の軍服を着た中国人と記念撮影

日もどっぷり暮れ20時過ぎになると、不意に近くにいたスタッフから、

「じゃあそろそろ着替えて」

と指示された。いい加減待ちくたびれていたが、いよいよ出番が近いようだ。だが、日本兵“小島”を演じられるのかと思いきや、すでに配役は決まっていて、私には名もなき海軍兵の役が与えられた。台詞付きの役をゲットするのは、容易ではないのだ。

演じるのは海軍といっても「海軍陸戦隊」と呼ばれる地上部隊だという。調べてみると、確かに戦前の大日本帝国海軍に存在した部隊の一つだった。黄土色のアーミーシャツの上に鉄板入りの防弾チョッキを頭からかぶると、ずっしりとした重みが両肩にのしかかる。さらに革製の弾薬入れ、防毒マスクの入ったバッグ、硬質ウレタン素材のおもちゃの日本刀を肩にかけ、最後に機関銃を構える。総重量は恐らく5キロ以上あり、着ているだけで全身に負荷がかかってじっとりと汗ばんでくる。重い。

着替えを終えると、コスプレをしているようで気分が高揚してきた。これは是非写真に撮りたいと思い、さっき食事中に雑談した共演者に、全身を写メで撮ってもらった。何枚か撮ってもらうと、

「一緒に撮ろうよ」

と言われ、横に並んで肩を組んだ。反日ドラマの制作現場で日本兵の軍服を着た中国人と肩を組むというのは、なんとも不思議な感覚だった。現場の空気感としては、「ドラマの撮影をしている」と意識はあっても、「反日ドラマを作っている」という意識はほとんどないのだ。

日本兵の服(考証は微妙)に着替えを終えた筆者。同じ日本兵役の中国人共演者に撮ってもらった。このあと一緒に記念写真も。(写真提供=西谷格氏)