「高校生で160キロを投げる」と宣言

大谷が仮説検証プロセスを重視するようになったのは、高校時代からだ。

大谷は高校時代に「高校生で160キロを投げる」と宣言した。それまで誰も達成しなかったことだ。その目標を実現するために、監督やコーチとともに体幹トレーニング、ランニング、柔軟性向上、さらに食事メニューや技術力強化などに取り組み、3年夏の岩手大会で160キロを実現してしまった。

永井孝尚『売る仕組みをどう作るか トルネード式仮説検証』(幻冬舎)では、本稿で紹介した仮説検証思考について詳しく解説している。

日本ハム時代にある打席で三振してベンチに戻ってきた時、次のように語っている。

「自分のデータになかったから仕方がない。次は大丈夫」

またあるインタビューでは、次のように語っている。

「結果を出すためにやり尽くしたと言える一日一日を、誰よりも大切に過ごしてきた自信を持っています」

日本ハムのコーチとして大谷に接していた吉井理人は、このように語っている。

「大谷は放っておいていい選手なんですよ。そういう選手はあまりいません。自分で考えて、順序立てて学んで、うまくなっていける選手ですから」

「誰もしたことのないことをやる」

注意すべきは、大谷が行っているのは世の中で一般的にいわれている「仮説検証」ではない、ということだ。明確な目的を持った上で、仮説検証を実践している。大谷の強さは、明確な目的意識、言い換えれば「あるべき姿」を持った上で、「あるべき姿」を実現するために愚直に仮説検証を繰り返しているところだ。

大谷が思い描く「あるべき姿」とは「誰もしたことのないことをやり、大リーグでトップを目指す」ことだ。そして目的実現のためには、達成手段も柔軟に変えていく。

たとえば高校3年生の時、大谷は「日本のプロ野球には行かず、マイナーリーグを経て大リーグに行く」と表明した。ドラフト会議では日本ハムが1位指名したが、この時点で「米国でやりたい。日本ハム入りの可能性はゼロ%」と意志が固かった。

日本ハムは「大谷翔平君 夢への道しるべ」と題した26ページの資料を用意。「直接大リーグに行くよりも母国リーグで実力をつけた選手の方が、大リーグで活躍する確率が高い」という統計データを示した上で、栗山監督から大谷の能力を最大限に発揮する二刀流のプランなどを提案した。

日本ハムの提案に、大谷は考えを改めた。一見遠回りだが、日本のプロ野球で基礎を作ることが「大リーグでトップを目指す」という夢を実現する近道と納得し、さらに誰もやったことがない二刀流を提案し挑戦を支援する日本ハムの体制にも魅力を感じたのだ。