周囲の声に左右されることが驚くほど少ない

当初から大谷の二刀流に対しては賛否両論があった特に最初は反対派が目立った。そんで、周囲の声に左右されずマイペースで二刀流の挑戦を続けてきたのも、「誰もしたことのないことをやり、大リーグでトップを目指す」というあるべき姿が明確であり、さらに失敗前提で仮説検証を行っているからだ。

大谷は無趣味を公言し、プライベートの時間もほとんど外出しない。彼のすべての行動は、首尾一貫して「あるべき姿」を実現するためのものだ。そのおかげで天賦の才能が大きく開花している。

ビジネスの世界でも、大きなイノベーションを生み出す人物は、「あるべき姿」を思い描き、仮説検証を愚直に行うことが、大きな武器になることをよくわかっている。

イーロン・マスクも「コツコツと努力を積み重ねた」

たとえばイーロン・マスクは、「環境破壊が続けば、人類は地球以外の惑星に住まなくてはいけなくなる」という危機感を持ち、「人類を火星に移住させる」という「あるべき姿」を思い描き、未経験のロケット事業に取り組み始めた。3回の失敗を重ね、創業8年目に宇宙ロケットを成功。さらに人類を火星に送り届けるためにロケットの総コストを100分の1に引き下げるため、使い捨てしていたロケットを回収する技術も実現した。

「いかにコストダウンをしたのか?」という問いに、イーロン・マスクは「コツコツと地道な努力を積み重ねることで成し遂げた」と語っている。イーロン・マスクも、「あるべき姿」を目指し、地道な仮説検証を愚直に積み重ねる大切さを知っているのだ。

大谷は天賦の才能に加えて、明確な目的意識を持った仮説検証プロセスの方法論を持ち、その方法論を愚直なまでに実践している。だから世界最強のプレイヤーが集う大リーグで注目を集める活躍ができるのだ。    

大谷は今後、さまざまな壁にぶつかることだろう。しかし「あるべき姿」を持ち続け、仮説検証の方法論を実戦し続ければ、必ず乗り越えることができるはずだ。

永井孝尚(ながい・たかひさ)
マーケティング戦略コンサルタント
1984年慶應義塾大学工学部卒業、日本IBM入社。マーケティング戦略のプロとして事業戦略策定と実施を担当。さらに人材育成責任者として人材育成戦略策定と実施を担当。2013年に日本IBMを退社。ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表に就任。執筆の傍ら、幅広い企業や団体を対象に新規事業開発支援を行う一方、講演や研修を通じてマーケティング戦略の面白さを伝え続けている。主な著書に『100円のコーラを1000円で売る方法』『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』(すべてKADOKAWA)、『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)、『「あなた」という商品を高く売る方法』(NHK出版新書)などがある。
(写真=時事通信フォト)
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