約50年間で平均余命は10年以上延び、その分、老後期間が延びた

ではどうすれば調整期間を短くできるか、考えてみましょう。

経済成長はもちろん大事です。成長して給与が増え、保険料収入が増えればそれだけ年金財政は安定し、個々人の将来の給付も確保できます。より重要なのは、先ほど述べた支え手=労働力人口を増やすことです。非正規労働者への社会保険の適用拡大も同じこと。年金制度の支え手を増やし、同時に個々人の将来の年金給付も確保する、ということです。

さて、この「支え手を増やす」を、別の視点から考えてみましょう。年金制度の基本構造はミクロでもマクロでも同じです。ミクロで考えると「現役のうちに引退後を含めた一生分の所得を確保する」ということですし、それを束にしてマクロで考えれば「現役世代が生んだ付加価値で引退世代に年金を給付する」ということになります。1人でやるか、社会全体でやるかだけの違いです。

人口が高齢化する、高齢者が増えるというのは、平均寿命が長くなり、一人一人が長生きするようになったことの結果にほかなりません。とすれば、もし平均寿命(引退時点での平均余命)が10年伸長したとするなら、そのうちの何年かは働く期間にして引退年齢を後ろ倒ししなければ、ミクロで見てもマクロで見ても、これまでどおりの収支バランスは成り立たないことになります。

表をご覧ください。この約50年間に日本人の平均余命は10年以上延びました。しかし就労期間はそれに見合うようには延びていません。平均余命が延びた分、ほぼ老後期間が延びているような状態です。

ミクロでバランスが取れれば、マクロでもバランスが取れます。平均余命の延びに見合って就労期間を延ばすことでバランスを取ることができれば、マクロ経済スライドによる給付水準調整期間が短くなって受給水準は維持されますし、そもそも年金制度加入期間が長くなりますから年金額もアップします。

スウェーデンでは、平均余命の延びに対してどのくらい就労期間を延ばせば給付水準が維持できるかを国民に示しています。たとえば1930年生まれと1995年生まれを比較し、65歳時点での平均余命は6年9カ月延びているので、引退年齢を4年4カ月延ばすとバランスする(給付水準が維持できる)、という具合です。

繰り返しますが、年金は社会や経済の縮図です。平均寿命の伸長に合わせて働く期間を長くするというのは、本人のためにも社会全体の持続可能性を確保するためにも必要なことです。そのことを年金の世界で考えればこうなるというだけの話です。

かくして、話は戻ります。雇用保障と年金をセットにした制度設計。雇用政策と一体となった年金制度改革。これがぜひとも必要です。「普通の人が普通に働いて普通に暮らせる」仕組みの構築を目指し、雇用と年金は一体的に考えるということです。

※本稿は個人的見解を示したものであり、外務省ともアゼルバイジャン大使館とも一切関係ありません


香取照幸(かとり・てるゆき)
1956年、東京都生まれ。東京大卒。厚生労働省で政策統括官、年金局長、雇用均等・児童家庭局長を歴任。内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめた。現駐アゼルバイジャン共和国大使。
 
(撮影=村上庄吾 写真=iStock.com)
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