今後30年間が「労働力人口減⇔高齢者増」の厳しい時期

これらのことを頭において、これから10年、20年先の公的年金制度がどうなるか、どうすればいいのかについて考えてみます。

労働力人口が減る一方で、団塊世代が高齢化。総人口に占める働く人の割合が増え、経済成長が促進される「人口ボーナス期」に対し、財政や経済が圧迫される「人口オーナス(重荷)期」と呼ばれる。

図をご覧ください。今後、労働力人口は減少します。現在6600万人の労働力人口は2030年には最大5300万人にまで減少し、その後も減少していきます。他方で65歳以上の高齢者人口は2040年あたりまで増え続け、その後減少に転じます。その後は労働力人口も高齢者人口も減っていきますが、高齢世代と現役世代の人口バランスは取れていくので年金制度は安定していきます。つまり、今後20~30年間が「労働力人口が減るのに高齢者は増え続ける」という一番厳しい時期だということです。この「胸突き八丁」をどう乗り切るかが日本社会と経済全体の課題であり、社会保障と公的年金制度の課題でもあるわけです。

この課題を解決する抜本的な対策は、支え手=働く人を増やし、総人口に占める労働力人口の割合を増やすか、増やせないまでもせめて維持するかしかありません。

少子化対策はもちろん大事ですが、18年生まれた子どもが支え手になるまでには20年かかりますから、同時に足元の対策が必要です。元気な高齢者には働いてもらう、より多くの女性が普通に働けるようにする、若い世代をフリーターなどで無駄に使わないでちゃんとフルタイムで働いてもらう、ということです。

大きな視点で公的年金制度の持続可能性、財政の安定と老後の所得保障の両立を考えるのなら、雇用と年金をセットにした制度設計がぜひとも必要です。現役の雇用と所得の保障が公的年金制度の安定とその人自身の老後保障につながるからです。

「日本社会の課題」とか言って他人任せにして、公的年金制度は自分では何も改革しないのか? と言われそうです。もちろんそんなことはありません。

この厳しい20~30年間を乗り切るために公的年金制度では2つの仕掛けを用意しています。1つは積立金の活用です。日本の年金積立金は約170兆円(2017年3月末)。日本の公的年金基金(GPIF)は世界最大の年金基金です。この積立金と運用益を計画的に取り崩して給付に回すことで、現役の負担上昇や高齢者の給付水準低下を抑制します。

もうひとつが「マクロ経済スライド」です。それは簡単に言えば「現役世代が負担できる範囲に収まるように年金給付を調整する」という仕組みです。年金給付は実質価値維持のため物価スライドしますが、一定の計算式に従ってこのスライド率を割り引くことで年金の実質水準を引き下げ、年金給付総額を調整して長期的な収支バランスを確保する、というのがマクロ経済スライドです。

この仕組みの導入によって公的年金財政は安定しましたが、給付水準は少しずつ引き下げられていきます。マクロの制度は維持できてもミクロ、つまり個々の受給者にとっての年金の所得保障機能は縮小していくわけです。そして当然ながらマクロ経済スライドによる調整が長期化すればするほど、給付水準はより大きく低下します。なので、この仕組み導入後の公的年金制度の課題は、ミクロの給付をいかに守るか、つまりマクロ経済スライド調整期間をいかに短くするか、ということになります。

そもそもこの「マクロ経済スライド」は、永遠にやりつづけるものではありません。年金財政の長期的収支が確保できればそこで終わりになります。端的に言えば「胸突き八丁」を乗り切るための仕掛けなのです。