いつか年金制度は潰れてしまうのではないか――? そんな疑問に対し、内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめた"ミスター年金"が制度をわかりやすく説く。

今の日本はすでに1人で1人を支える「肩車」状態

公的年金制度の基本的仕組みは「働いている現役世代が生み出した付加価値を、生産から退いた高齢者に配る」ことです。公的年金制度は、よく「肩車」や「騎馬戦」などにたとえられますが、「働いている人が働いていない人を含めた全人口を支える」という意味では公的年金も普通の社会と基本構造は同じです。

写真=iStock.com/itasun

2015年の日本の総人口は約1億2700万、生産年齢人口は約7700万ですが、実際に働いている人数(労働力人口)は6600万で総人口の約50%にすぎません。6600万人で1億2700万人を支えている。今の日本だってすでに「1人で1人を支える『肩車』」になっているのです。

今、日本経済は潰れていません。しかし今後日本はさらなる高齢化・少子化・人口減少・労働力人口減少が進んでいろいろ厳しい局面を迎えます。このことは公的年金についても言えることです。支え手が減って受給者が増える。制度は潰れはしませんが、バラ色の給付というわけにはいきません。

公的年金制度の課題は日本社会と日本経済が直面する課題そのものです。できる改革は進めていかなければなりません。「公的年金は日本社会・経済の縮図」なのだということをまず理解してください。

▼年金は貯蓄でもなく、金融商品でもない

このことから、公的年金を考えるときのポイントをいくつか導き出すことができます。

第1に、公的年金は「付加価値の分配」ですから、経済の実力以上の年金制度というのはありえません。もし現役世代が負担に耐えきれず年金が潰れるというときが来るとしたら、その前に日本経済が潰れているはずです。逆に言えば、日本経済が潰れない限り、公的年金は潰れません。

第2に、年金が抱える課題は年金の世界だけで考えていても解決できません。処方箋の多くは年金制度の外にあります。少子化/家族支援対策・経済政策・雇用労働政策等々、日本社会・経済の課題解決が年金制度の課題解決につながります。

第3に、経済学者の大好きな年金の財政方式に関する論議は問題解決にとって意味を持ちません。積立方式でも賦課方式でも、民営化しようがどうしようが、「現役の生んだ付加価値の分配」という制度の本質に変わりはありませんから、それで給付水準が上がるわけでも年金財政がより安定するわけでもありません。制度が潰れるわけでもないのに、土台ごとひっくり返すような制度変更をするのは馬鹿げています。

もうひとつ大事なことがあります。公的年金は「貯蓄」でも「金融商品」でもない。「保険」だということです。何を「保険」の対象にしているかというと、「長生きのリスク」です。寿命は誰にもわかりません。「長生きしても困らない」ためにあるのが公的年金です。だから世界中どこでも公的年金は必ず「終身給付」です。

「生きている限り、いつまででも保障します」が公的年金の基本機能です。払い込んだ保険料の総額とは関係ありません。金融商品である私的年金との決定的な違いはここにあります。「保険」ですから損得論は無意味です。死んでお金は持っていけませんし、その必要もないはずです。

以上、簡単なことですが、多くの経済学者のみなさんは、社会保障の基本哲学をちゃんと勉強していないのかよくわかっていない人が多いです。「公的年金は潰れる」「巨額の債務超過・積立不足がある」「民営化すれば効率化できる」なんてまだ議論している人がいたら、その人の唱えている社会保障論はまず「トンデモ系」と思っていただいて結構です。