このメタ認知能力を常に働かせることができるようになれば、いま自分がチャレンジしていることについて、「第三者的な目」で分析できるようになってきます。これが脳リミットをはずすきっかけとなるのです。

茂木健一郎『脳リミットのはずし方』(河出書房新社)

では、どのように自分を客観視して、同じ失敗を繰り返さないように自分をコントロールすればいいのか。

そのためには、自分の考え方や行動に対する「良質なトライ&エラー」を繰り返すことです。

ここで大事なのは、何度失敗しても、失敗から学んだことを次に生かして、何度でもやり直してみること。これはいわば、「ほろ苦い自己確認」ともいえます。

そのためには、日頃からこのメタ認知を意識しながら、自己モニタリングをおこない、「自分に足りないものは何か」、「何をどう軌道修正するべきか」を自分でしっかりと考えながら、「いまここ」という、目の前のことに集中していくのが重要なのです。

能力の低い人ほど、自分を過大評価する

自分の限界を超えてチャレンジするための自己モニタリングをおこない、自分に足りないものは何なのかを客観視する能力が、「メタ認知」だと述べました。

耳が痛い話かもしれませんが、実はこのメタ認知能力が低い人ほど、自分の能力を過大評価しやすいという特徴があることは先ほどもお話ししました。

この点について、もう少しだけ深掘りしていきたいと思います。

アメリカのコーネル大学で、デビッド・ダニング博士とジャスティン・クルーガー博士は、どのような人が正しく自己評価でき、またどのような人が自己評価を誤る傾向があるのかという研究をしました。

この研究は、ふたりの博士の名前から「ダニング=クルーガー効果」と名づられたのですが、このダニング=クルーガー効果は次のように説明できます。

(1)能力の低い人は自分のレベルを正しく評価できない
(2)能力の低い人は他人のスキルも正しく評価できない
(3)よって、能力の低い人は自分を過大評価する

例えば、ある試験のあとに、自分がどの程度の成績かを評価させる実験がおこなわれました。

すると、下位4分の1にいる人は「かなりできたので上位を狙える」と答え、上位にいる人ほど「もっと成績を上げる努力が必要」と謙虚な答えが返ってきたのです。これがまさに、ダニング=クルーガー効果の好例であり、脳が持つ特定の思考癖を表しています。

ダニング=クルーガー効果にみられる、自己評価を誤る思考癖は、脳リミットをはずして自分の限界を超えるためにはマイナスになることは、もはやいうまでもありません。なぜなら、こうした思考癖は、脳の判断ミスを無意識のうちに誘発するからです。