「お父さんなあ、この人と一緒に暮らそうと思っているんだ」
妹さんにもその報告をしましたが、特に異議はなかったとのこと。この時は、姉妹ふたりとも“いい茶飲み友達ができた”という認識だったようです。
ところが、そんな穏やかなレベルでは収まりませんでした。
ある日、Sさんが父親の部屋を訪問するとその女性がいて、昼間から一緒にお酒を飲んでいました。カップルならではの親密な空気が流れていたそうです。しかも、動揺するSさんに、父親は衝撃的なひと言を放ちました。
「お父さんなあ、この人と一緒に暮らそうと思っているんだ」
Sさんは驚きで声も出なかったようですが、親の心子知らずならぬ子の心親知らずで、父親は続けざまにこう言ったそうです。
▼「この人の手料理、おいしいんだ」「この人と籍を入れようと思う」
「この人の手料理、おいしいんだよな」
「今はまだ、この人も自分の部屋の契約を継続しているんだけど、一緒に住むことになれば、その家賃が節約できるだろ。ここの規則によれば、同居できるのは夫婦なんだよな。だから、この人と籍を入れようと思っているんだ」
Sさんは信頼しているケアマネのMさんに「この話を聞いた瞬間に頭に浮かんだのは“後妻業”です」と告白しました
2015年、京都で高齢男性と結婚しては相手を殺し、遺産を得るということを繰り返していた女が逮捕されました。いわば資産を狙った計画殺人です。ちょうど同じ頃、『後妻業』という小説が刊行され、映画化されるなど話題を呼びました。どうやらSさんはそれを思い出して不安になり、対処の仕方をケアマネのMさんに相談したわけです。Mさんはこう振り返ります。
「私も施設に勤めた経験があり、高齢者同士の恋愛模様はずいぶん見てきました。世間の人たちは年老いたら枯れると思っているかもしれませんが、それは大きな誤解です。生きている限り性欲はあるし、異性を求めるものなんです」
「私が見てきたケースに資産狙いというのはなくて、好きで一緒にいたいというものばかりでした。恋愛感情に燃えているふたりのところに第三者が割って入り、何か言ってもどうにもならないじゃないですか。だから、私たちもどう対処していいか分からないというのが正直なところです。ただ、籍を入れるとなると話は別です。遺産相続の問題が生じますからね。ですから、Sさんには“籍を入れるのはおすすめできません。反対したほうがいいと思います”とアドバイスしました」