転職して本当に良かった

さて、転職をしてどうなるか。私の体験で言えば「転職をして本当に良かった」としか思えない。

新卒で博報堂に入ったが、4年で辞めてしまった後、無職の期間を経てフリーライターになった。世間的にはそれなりに高給取りといえる会社を突然辞め、「不安定」「仕事がないと貧乏への道まっしぐら」という印象が付きまとうライターという職業を選んだことを、面白がってくれる人が多かったように思う。また、博報堂で培った「長時間労働に耐える力」「お金を出す発注主がいちばん偉いことを理解している下請け根性」「仕事は楽しくするものだという思想」は、確実に私の土台になっている。それらを糧にしながら、会社を辞めて17年、途切れることなく仕事を依頼され続けている。

現在、人生や仕事に対してまったく不満はない。博報堂への感謝はかなりあるが、正直44歳の自分が今もあそこに残っていたら、おそらく不幸せだったと思う。どう考えても出世していないだろうし、きっと若者からウザがられる、ヒマな給料泥棒的オッサンになっていただろう。

仕事を依頼される理由は意外と単純

会社を辞めて以来、本当にいろいろな人から仕事を依頼され、さまざまな形で助けられてきた。ただ、私に発注してくれた理由は千差万別だ。いくつかの例を箇条書きしてみよう。

・ヒマそうでギャラの安い若者にガンガン働いてもらいたかったから。
・広告業界出身のフリーランスだから。
・酒が強いので、やたらと飲みたがる上司を押し付けて、自分は逃げられそうだから。
・メールの返事が早いから。
・電話をかけたら絶対に出るから。
・大企業における社内稟議の煩雑さを理解しているから。
・それなりに礼儀正しく挨拶をしたり、クライアントを立てたりすることができるから。

「なんて単純な!」とあきれるかもしれないが、仕事なんてものは、案外この程度の理由でもらえてしまうのである。なかには、フリーランスとして何度か仕事をした後、「ウチの正社員にならないか?」と誘ってくれた取引先もある。

どれも大した能力ではない。だが、「次のオファー」が来るきっかけは、こうしたささいな理由であることが多い。だから、初めて入った会社に違和感を覚えている人、イヤでしかたない人はさっさと辞めてしまってもいい。目の前の仕事に粛々と取り組んでさえいれば、案外、世間はあなたに優しくしてくれることが多い──そんなふうに社会人22年目、フリーランス18年目を向かえた私は思っている。とりあえず1社目に入ってしまい、イヤなら辞める。その程度の軽い気持ちで就職をとらえ、肩の力を抜いて仕事に取り組むほうが、よりよい人生を歩める可能性は上がるのではないだろうか。

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・就活や最初の勤め先に満足できなくても、それで人生が決まるわけではないので、絶望するな。
・どうしてもイヤになったら転職すればよい。意外とうまくいくものだ。
・基本的なこと、ちょっとした配慮を怠らなければ、そこから活路が開けることも多い。
中川 淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
(写真=iStock.com)
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