月間5万件の処理を95%程度の精度でこなす

そのような中で保険部長に就任したのが八田氏で、2014年のことだ。八田氏はIBMの「ワトソン」の可能性にかけることになる。富国生命がIBMのAIを導入したのは2011年、苦情処理の問題からだった。

「私どものコールセンターには月間5万件の声が寄せられ、この中から苦情を取り出して関係部署の管理職に報告をし、さらにこれを新規契約、保険金、保全など37項目に分類して生命保険協会に提出しなければならない。しかも勤務時間の午前9時から午後5時の日常業務が終わったあとに人間が読み込んで、この作業をしなければならなかったのでかなり大変な作業だったのです」

この作業を効率化するために採用したのがICA(IBM Content Analytics with Enterprise Search)だった。

このとき月間5万件の処理を95%程度の精度でやってのけたのがこのICAだった。人間が見なければならないのは20分の1程度。これで富国生命のクレーム処理の効率化は急速に進んだ。

そして保険金の支払い審査についてもAIを活用してはどうだろうかとIBMから提案があり、「ワトソン」の導入が持ち上がった。

2014年12月9日にフェーズ1の決裁をとり、導入することが決まった。しかし、給付金の支払い査定は単純なクレームの分類とは違う。

「4月に私が部長として配属され、夏に構想して12月に決裁、2015年1月から開発に入り、8月に稼働しました。さらに第2フェーズとして給付金システムに組み込んで、ワトソンが人のかわりにやっていけるようにするのに、15年10月から16年12月までかけてやりました」

給付金の査定は少なくとも99.9%の精度で行わなければならない。そのためこれまで人が12人がかりで査定を何重にも重ねてチェックをやってきた。

しかし、「ワトソン」の精度は90%程度。例えば、「胃がん」という言葉は「胃ガン(カタカナ読み)」も「胃癌(漢字読み)」も「胃悪性新生物(別の読み方)」も存在する。これをひとつの「胃がんの傷害コード」にまとめるために「ワトソン」には繰り返し学習させていかなければならない。

どんなに学習させても99.9%にするというのはとてもできない相談だという。さらに高度な判断が必要とするような仕事も任せることができない。とても全面的に仕事を任せるわけにはいかない。そのため「ワトソン」を導入した大手の生命保険会社の中にはすでに導入をあきらめたところもあるという。