人とAIの共存はすでに始まっている

このとき八田が考えたのが「ワトソン」と人間との協業。ワトソンがチェックしたものを人間がダブル、トリプルチェックして精度をあげていくとともに、ワトソンに学習させるというものだ。このときワトソンに広く学習させるためにわざとチューニングを甘くした。実は狙いはそれだけではない。ワトソンをチェックする人たちにも緊張感を与えるためだ。

「人というのは周りがしっかりやってくれると思うとつい、依存心が生まれてしまってチェックが甘くなります。だからあえてチューニングを甘くした。そのため最初のころは社員から『AIなんて言うからどれだけすごいかと思いましたが、意外に頭悪いんですね。なぜこんなことがわからないんですか』なんていわれました(笑)」

しかし、これがAIと人間の結束を生み、結果的には12人でチェックしているものを「ワトソン」と6人の社員でチェックできるようになったという。

「全体で30人程度、査定ラインでは50%の人員の仕事をワトソンに置き換えることができた」

これはコストの面から見ても非常に効果が大きいという。「ワトソン」の初期費用は2億円、ランニングコストが1500万円。新人にしてはかなり高い給料かもしれないが、1人400万円とすれば30人で1億2000万円。3年でランニングコストも含めて元が取れる勘定だ。

しかも何時間でも働いてくれる、残業手当も休憩も手当もいらないということになれば、これほど役に立つ新入社員はいない。しかも教えたことはしっかりと覚えて不平不満を言わない、こんな頼もしい社員はいくら探しても見つからない。

「最初の導入段階は私ともう1人の女性社員だけ。しかも私は部長も兼務していましたから実質女性社員1人で、調整などはIBMの社員がやってくれたので、かかった時間はわずか数カ月間です。本当に頼もしい新入社員だと思います」

今後は学習を繰りかえして精度を上げ、さらに対象業務も広げて、今年1月には支払監査室の業務にも導入した。今後は支払いの査定業務は人を介さずにワトソンだけでできるようにしようとしているほか、お客様サービスや解約や住所・名義変更など保全業務などにも広げていくという。

複雑で高度な仕事は人間が、単純な作業はAIが行う富国生命。AIという技術の進歩は人間から仕事を奪うのではない。人間とAIとの共存はすでに始まっている。

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