社長は「1円単位」で物事を考えない

多くの会社は、経理に正確さを求めます。ですが私は、経理に「早さ」を求めます。それは経営判断に必要なのは、「早く数字を知ること」にほかならないからです。家を出るとき、財布の中に、「お札が何枚あるか」がわかればいいのであって、「小銭」まで細かく数える人はいません。

会社も同じです。98%の精度でかまわないので、「翌月1日、前月の数字を知る」ことが肝心なのです。

経理は、1円単位で物事を考えます。社員は、1000円単位で物事を考えます。けれど社長は、「100万円単位」で物事を考えるべき。私が知りたいのは、「黒字か、赤字か(赤字ならばすぐに対策を打つ)」「黒字ならば、前年同月と比べて多いか、少ないか(前年より利益が出ていれば問題ない)」この2点だけです。

社長に必要なのは「上2桁」の数字

武蔵野の月次決算は、「締め日の翌日」には出るしくみです。「締め日の翌日」にした理由は、スピード経営のためです。

わが社は、パート・アルバイトを入れると800人に及ぶ大所帯です。しかし、経理部門はわずか3人で担当しています(社員2人とパート1人)。それでも月次決算は、締め切った翌日の夕方6時には、P/LとB/S(賃借対照表)が出ます。

締め日の翌日に数字を出すことができるのは、社員に完璧を求めていないからです。多くの社長、多くの経理担当者は、「月次決算では、1円単位の間違いも許されない」という先入観を持っていますが、これは誤りです。

売上は1~31日、仕入は21日~20日、給料は16~15日の締め切りでそれぞれがズレています。毎月同じタイミングで締め切るから問題はありません。

我が社での月次決算の数字の精度は98%です。「精度は高い」と言えるでしょうが、売上規模からすれば、集計時毎月数百万円もの誤差が出ています。

ですが、社長にとって必要なのは、「上2桁」の数字であり、1円単位の数字ではありません。社長が知らなければならない数字は、アバウトでいい。100万円単位の誤差は、経営判断に影響しません。

月次決算に3週間かかる会社で、前月の振り返りをして次の手を打つと、1ヵ月ロスすることになります。中小企業の1カ月の判断遅れは、致命傷になりかねません。大切なことは、経理が早く数字を出すことです。その数字が正確か、正確ではないかは関係ありません。

この数字は「早く出る」ことこそが正しいのです。

数字が正確でなくてもいいから、できるだけ早く「黒字か、赤字か」をはっきりさせる。残り2%の誤差は、後日修正すればいいのですから。

会社経営は数字の扱い方ですべては決まります。

積み上げ式で経営を考えている、「額」ではなく「率」を重要視している、社長が「1円単位」で物事を考えている。

これらが右肩下がりの会社に共通して見られる“ダメな経営”の傾向なのです。

小山 昇(こやま・のぼる)
武蔵野社長 1948年山梨県生まれ。東京経済大学を卒業し、日本サービスマーチャンダイザー(現在の武蔵野)に入社。一時期、独立して自身の会社を経営していたが、1987年に武蔵野に復帰。1989年より社長に就任し、現在に至る。主な著書に「社長の決定シリーズ」の『経営計画は1冊の手帳にまとめなさい』『右肩下がりの時代にわが社だけ「右肩上がり」を達成する方法』(すべてKADOKAWA)などがある。
(写真=iStock.com)
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